証券業界でホットな話題になっているのがフェアディスクロージャー・ルールである。2018年度までに導入されるのではないかとされる。何のルールかと言えば、早耳情報(その素となる情報)の伝達の禁止である。
インサイダー情報(内部者しか知らない重要情報)に基づく証券売買は禁止されている。しかし、インサイダー情報に近いが、もう少し軽微な情報の伝達は必ずしも禁止されてこなかった。
たとえば、少し語弊のある書き方だが、新聞に「A社の業績が上振れ(下振れ)予想」と掲載され、その翌日か翌々日に決算発表されることがある。とすれば、証券会社や大手投資家のアナリストが同じような情報を事前に入手して、誰かがその企業の株式を売買しているかもしれない。
業績の上振れ(下振れ)が大幅でなければ、インサイダー情報に該当しないだろう。法的にも、インサイダー情報に基づく取引だと認定することに困難性があったらしい。しかし、個人投資家からすれば、インサイダー情報に基づく売買と同様、「ズッコイことして」である。フェアではない。
この「ズッコイこと」を禁止しようというのがフェアディスクロージャー・ルールの主旨である。企業は、「ズッコイこと」になりそうな情報を投資家や証券会社(メディアは除く)に伝えてしまったのなら、その情報をすみやかに公表しなければならないとされる。
新聞は、このフェアディスクロージャー・ルールについて、企業側の情報伝達が後退するのではないかと報じている。これに対しては、「そうかもしれないが、そもそも論として、企業業績の実績値を少しだけ早く知ることに何の本来的な意味があるんや、ちっとも生産的な活動やないで」と思ってしまう。それと同時に、「良い企業は、投資家に伝えるべき情報を毅然として伝え続ける」とも思う。情報の伝達方法によって、良い企業と悪い企業を見分けてはどうだろうか。
ただし、注意すべき点がある。
今まで、企業業績の実績値もしくはその数値に関するヒントが一部の証券会社や投資家に漏れていたのは確かだということと、それに基づく株式の売買もあったと考えるのが正しいということである。そうだとすれば、決算数値が公表される少し前から、株価は決算数値を織り込みに行っていたはずである。この結果、実際に決算数値が公表されたとしても、サプライズすなわち瞬間的な株価の反応は比較的小さかったと考えていい。
今後、フェアディスクロージャー・ルールが適用されると、決算情報の漏れがなくなり、それを事前に織り込むことが難しくなる。この結果、決算数値の公表がもたらす株価のサプライズが大きくなりうる。
企業側は適時開示(この場合は決算予想数値の見直し結果の公表)を今まで以上にこまめに行う必要が生じるだろう。投資家は、株価に今まで以上のサプライズがあることを前提として、投資すべきだろう。
2016/12/14