白川前日銀総裁に京都大学で講義してもらった。農林中金バリューインベストメンツの寄附講義の一環である。興味深い内容だった。白か黒かの対決を期待してはいけない。それとは次元が異なった。
白川さんとは20年近く前に知り合った。奇縁とも表現すべきなのだが、今回の講義と同じ農中の方の紹介により、債券担当部長クラスの研究会に加わってもらった。その後の20年、何回も会った感触からすると、白か黒かの対決にならないことは明らかだった。だから、こちらとしても安心して講義を依頼できたのだが。
白川さん自身、今回の講義の中で、「中央銀行トップの職を下りた尊敬すべき諸先輩は(海外を含め)、後任の政策に対して口を挟まない」という主旨のことを言われていた。どこかの会社のトップが顧問になっても経営に口を挟み、院政を敷くのとは大違いである。
日本銀行を含めた中央銀行は医者のような存在だというのが、今回の講義での象徴的な言葉だった。後で聞くと、近々医師会かどこかで講演するので、分かりやすい説明を考えているとのことだったが。
つまり、「医者は患者の老も病も死も避けられないものの、大きな役割がある」との比喩である。経済の潜在的な成長率は、労働人口の伸びと生産性の上昇(イノベーション)で決まる。このため中央銀行としては何もできない。しかし、「中央銀行は、安定的な金融環境(物価安定、金融システム安定)を作ることで、持続的な成長の実現に貢献することを(国民から)期待されている」と説明された。
医者との関係でもう一言、ヒポクラテスの言葉から、「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない」とも。
その他、いくつもの興味深い、「そこまで考えて政策決定に臨んでいたんや」という話があった。これは(学生はもちろん)講義を聴いていた者達だけの大いなる特典だった。
2017/05/19