1月26日に「仮想通貨と行政の勇み足」を書いた。その記事を書くのと同時並行的に「コインチェック事件」が生じ、NEMなる仮想通貨580億円相当(といっても、幻の金額)が消失したという。これだけ巨額だと、驚くどころか、脳が麻痺して眠たくなる。
仮想通貨に関して何回か書いたので、僕の見解をまとめておく。
1、仮想通貨のベースとなっている技術、ブロックチェーンはフィンテック(Financial Technology)のコア技術の1つと考えていい。
2、ブロックチェーンから生まれた仮想通貨がフィンテックの代表的産物とみなすのは時期尚早そうである。むしろ、現在の仮想通貨はあだ花に近く、幻想である。幻想で終わればまだしも、現実には、17世紀のオランダで生じたチューリップバブルと同等か、それ以上の混乱や詐欺的行為をもたらしている。
3、現在の仮想通貨には社会的価値が何もない。正確には、グローバルな送金の容易さという社会的価値があったものの、価格が乱高下するようになったため、送金した(ドルならドルベースの)金額が定まらなくなり、自らその社会的価値を喪失した。残ったのは、投機の対象、いかさまの対象という、丁半博打に近い性質だけである。
グローバルには仮想通貨や、独自の仮想通貨を発行して「起業」するICO(Initial Coin Offering)を規制しようとの動きが強まっている。
ICOとは、新たな独自仮想通貨を発行し、それとの交換でドルや円資金を調達して、そのドルや円で起業する(そう言い触らす)方法である。少し考えればわかるように、仮想通貨には価値の裏付けがないから、ICOとは、ちらし紙と交換にドルや円を渡す結果に終わりかねない。仮想通貨の高騰に目を奪われている者が多い現在、詐欺をしようとする輩にICOはもってこいの道具立てである。
ICOだけでなく、詐欺的行為を交え、仮想通貨の相場操縦を行う例もあるようだ。この点は次の記事(Bloombergの日本語訳)に書かれている。
https://www.gizmodo.jp/2018/02/what-is-bitcoin-tether-issue.html
日本だけが、このグローバルな動きから浮き上がっている。昨年4月、世界に先駆け、金融庁は仮想通貨取扱い業者の登録制を設けた。カジノ法案と同じで、新しい産業育成というお題目に議員が動き、行政がそれに動かされた。この点、次の記事に議員の働きかけが書かれている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-02-02/P3I0OD6S972B01
ICOに対しても、水面下で議論が始まったと聞いてはいるが、表面的に規制する動きが日本にはない。ICOをほったらかしにすれば、金融庁の大きな汚点となろう。大臣には(誰が大臣かは知らない故に一般論だが)仮想通貨やICOに対する正しい知識がないと危惧されるので、金融庁の内部から動くしかない。
今日の日経新聞には「仮想通貨市場が拡大を続けるために・・解決すべき多くの課題」と書かれている。この認識にも大きな疑問符が付く。あたかも「今の仮想通貨はフィンテックの申し子なのに、邪悪の手によって扱われて可哀想に」のような認識だからである。上で示した見解2や3と相容れない。
仮想通貨に対して、いまさら中国を見習って禁止とは言えないだろう。禁止が一番正しい方法だとしても、役所としての面目がある。
妥協案(単なるアイデア)を提示しておく。一定の猶予期間を設けた後、固定価格の(少なくとも一定幅の範囲内のみで動く)仮想通貨だけを、新たな仮想通貨として取引を認めることである。新たな仮想通貨の価値を保全するため、取扱い業者に一定割合もしくは一定額の資産を積むことも課すべきである。もちろん、取引システムの安全性、仮想通貨保有者の預かり資産の保全システムも必要である。
いずれにしても、仮想通貨というか幻想通貨に先走りすぎた日本は、これまでのフィンテックに対する遅れを取り戻すどころか、ますます無知を露呈したのではないか。
2018/02/03