現在の公的年金の受け取り開始年齢は原則満65歳である。その支給開始年齢を満70歳まで後倒しすることができる。政府はこの後倒し年齢を70歳超にしようとしている。
70歳か70歳超かはともかく、公的年金の支給開始年齢を後倒しすることが得なのか。考えてみたい。
得な点は、後倒しすると月当たり0.7%、年率にして8.4%年金額が増えることに尽きる。今時、年率8.4%で資産運用できるとは「すごい」。70歳まで後ろ倒しすれば、年金額が42%も増える。
この制度、そこまで美味しいのか。うまい話には裏があるはず。極端にいえば、政府がそんな大盤振る舞いをするとは思えない。ひょっとして、年間8.4%の餌に老人が飛びつくのを待っているのではないか。
真面目な話、少なくとも次のマイナス部分を考え、後ろ倒しの決断が必要になる。
まずは死亡率である。65歳を超えてくると、毎年100人に1人は死ぬ。死亡率1%強である。70歳になると死亡率2%に近くなる。この死亡率、つまり死亡によって年金を受け取れなくなることを考慮に入れないとダメである。
死亡率を加味するには、厚労省が公表している生命表の数値を入れて計算すればいい。しかし、その計算は少しだけだが面倒である。
そこで、何歳まで生きられれば、原則のとおり満65歳から受け取る年金の総額と、後ろ倒しにした年金の総額とが一緒になるのかを計算してみた(簡単な計算なので各自で確認するのがいい)。
結果は、満66歳から受け取る場合は満78歳直前まで生きなければならない。満70歳から受け取る場合は満82歳直前までである。これは、受け取った年金をすべて使い切り、資産運用しないとの前提での計算である。資産家の場合、年金は運用に回せるので、このことを考慮するとさらに長生きしないとペイしない。
もう1点考慮する必要があるのは、公的年金の財政状態の悪化である。現実にこれがあるため、年金の支給金額などは引き下げの方向にあるし、実際に引き下げられてきた。
問題になるのが、支給開始年齢を後ろ倒しにしたとき、年間8.4%という率が、当初に計算できた年金額に掛かるのか、引き下げられた後の年金額に掛かるのかである。後者であれば、年間8.4%は絵に描いた餅になり、実際にはそれよりも小さくなってしまう。僕には関係ないことなので、どういう扱いになるのかは知らない(関心があるなら自分で調べてほしい)。
もっというと、国民の立場から評価すれば、現在の公的年金の規定がどうなっていようが、結局のところ、その規定が無視される可能性に注意が必要である。「約束」とか「約束違反」とかの見出しが公的年金版の辞書にはない。法律によって何でも自由に変えられる。
これは、年金受給者にとっての最大のリスクである。このリスク分だけ、年間8.4%の「リターン」が絵に描いた餅になる。
最後に考えないといけないのが、公的年金を何に使うのかである。老後の生活を旅行などで豊かにしたいのなら、お金持ちでないかぎり、健康なうちに受け取るのがいい。老人ホームなどに入る資金の足しにしたいのなら、必要な資金額とその時期をイメージして、生活設計をきちんと行わないといけない。
いずれにしても、年間8.4%という餌に即時に食いつかないことが肝要だろう。
2018/02/21