川北英隆のブログ

富士フイルムに関するコメント

今日の日経新聞の13面、富士フイルムによるゼロックス本体の子会社化に対して、僕のコメントが引用されていた。これに対して少し付言(言い訳かな)をしておく。
引用されたコメントは、アイカーン氏らアクティビスト(物言う株主と訳されている)の投資スタンスについて、「物言う株主は最終的に年率10%以上の投資リターンを求められる」というものだった。
ここでいうアクティビスト(物言う株主)とは、いわくある企業の株式を安く買い、交渉して高く買い戻させるか、配当などの対価を得る投資戦略を採る投資家のことである。
このアクティビストに対して「最終的に年率10%以上の投資リターンを求めている」と言ったのは確かだが、アクティビストは個々の案件に関して20%以上の投資リターンを求めているだろう。成功するかどうかのリスクがあるから、個々の案件についての目標設定は高めである。
10%以上の投資リターンは最低限の水準であり、投資ファンド全体としての出来上がりの数値でもある。10%なら市場平均以上になるだろうから、投資家として満足できよう。記者にもそのような主旨で話した。
新聞によると、アイカーン氏らは2015年末にゼロックスの大株主として登場し、株式の取得コストは25ドル前後とある。2015年末から2.5年が経過している。年率20%とすれば2.5年で50%のリターンになるから、25ドルで買ったものを37.5ドルで売ればいい。
アイカーン氏は40ドルでの売却(アクティビストとしての退出)を望んでいるとされる。これとも整合性が取れる。富士フィルムがどのように交渉するのかに注目したい。
思うに、富士フイルムがゼロックス本体を子会社化したい理由にはいくつかありそうだ。
1つは、メディアなどが報じているように、「紙を使った文書」の文化が世界的に衰退するからである。富士フイルムの業績を支えた富士ゼロックスが今後とも富士フイルムを支えられるかどうか不明である。ゼロックスの事業全体を掌握したいと富士フィルムが考えるのは当然である。
2つには、ガバナンス問題である。富士ゼロックスの海外販売会社による不正会計問題が明るみに出た直後に、今回のゼロックス本体の子会社化が公表された。裏に何かのつながりがあると考えて大きな間違いがないように思う。
ゼロックスはアメリカの名門会社である。同じくアメリカの名門会社、ウェスティングハウスを支配下に収めた東芝が、結局はウェスティングハウスにてこずり、大損を食らった。これと同じことが(東芝とウェスティングハウスの小型版かもしれないが)富士ゼロックスの海外販売会社で生じていなかったのか。富士フイルムとしてはゼロックス全体を支配することで、東芝の轍を踏まないようにしようとしたのではないか。
とはいえ、富士フイルムはゼロックスを子会社化する最初の一歩で躓いた。それが今回の子会社化劇での第一幕だったように思う。富士フイルム側(ゼロックスを含む)は今回の子会社化を公表する前にアイカーン氏に接触していなかったのだろうか。アドバイザーはどう行動したのだろうか。どこかに不備があったと思えて仕方ない。

2018/05/09


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