昨日(8/25)の新聞に「バフェット流運用の受難」という見出しが躍っていた。日経新聞の2面である。何のことかというと、投資の神様と称されるバフェットが行ってきたバリュー(value)株投資が曲がり角を迎えたとあった。注意して読むべき内容である。
バリュー株と対になって使われるのがグロース(growth)株、つまり成長株である。ここまで、あえてバリュー株の日本語訳を示さなかった。何と、「バリュー株」は価値株ではなく割安株と訳されている。何か変である。
バフェットがこれまで実行してきたのは確かにバリュー株投資である。このバフェットのバリュー株投資とは、投資する価値のある株式、すなわち安定的に高い利益を生み出す(当然、経済の成長とともに成長もする)企業の株式に投資することである。その株式を、とくに市場全体の暴落などで極端に安くなったとき、集中的に投資してきた。まさにvalue株投資である。
これに対して日本で広く言われる(そして昨日の新聞記事にあった)バリュー株すなわち割安株とは、PBR(株価純資産倍率)で計測して低位にある企業の株式である。そう定義されている。疑問は、そんな株が本来の意味で「割安」、つまり買得なのかという点にある。
言い換えれば、PBRが低位にあれば割安、すなわち安値に放置されていて、いずれ株価が他の企業の株式よりも中長期的に大きく上昇するのかどうかである。結論を先に書くのなら、PBRが低位にある企業にはダメ企業も多く含まれる。短期的な株価変動を狙うのならともかく、個人投資家がそんな「割安株」というか「ボロ株」投資をすべきではない。
少しだけ考えてみたい。
PBRの低い株式がバフェット的なバリュー株(例えばコカ・コーラ株)なのか。端的な例として衰退しつつある産業や企業の多くはPBRが低い。多くの投資家は、そんな企業の株式を買いたくないと思うに決まっている。
理論的に言えば、ROE(自己資本利益率)が投資家の要請する率を下回っている企業では、PBRは1倍未満になり、日本で言う割安株に分類されてしまう。上で例示した衰退産業や企業の株式でも、株主資本が要請するROEをなかなか上回れず、PBRが1倍未満となり、割安株に分類されよう。
こんな企業の株式を本気で買うのかどうかである。ボロ株投資が趣味ならともかく(僕も、かつてはそこまで極端ではないにしても、短期的に値上がりしそうな株式も:「も」であるが、狙っていたと白状しておく)、普通は避けるのがいい。当然、バフェットはそんな企業に目もくれない。
そもそも、日本で言う割安株はころころ変わることにも注意すべきである。ある時に割安だったとしても、その株が買われればPBRが上昇してしまい、定義上、割安ではなくなる。
このように、割安か割安でないかが短期で変貌する企業の株式は、本来的な意味で「買っていい」株式なのだろうか。当然、あるときに買ってはいいが、次の瞬間に売らないといけない。長期投資で有名なバフェットがそんな株式投資をするわけがない。
日本ではバリュー株投資の意味が混乱している。混乱している理由は簡単である。投資期間を意識せず、単に儲かればいい、安く買って高く売ればいいと思っているからにすぎない。本来のvalue株投資とは長期である。これに対して日本の一般的なバリュー株投資とは、PBRだけで定義するからには短期になってしまう。
最後に、世界的にグロース(growth)株投資が注目を浴び、実際に成果を生み出してきた理由に言及したい。思うに(要するに仮説だが)、ほぼすべての企業が大変革に晒されている。この大変革によって収益力の低下した企業が衰退の危機に陥っている。この意味で、企業価値の評価基準も大変革の最中にあり、従来の基準だけでは測れなくなった。バフェットも投資スタンスを換えてきている。
代表的にはアマゾンの登場である。アマゾンは従来の基準では赤字企業だったし、ダメ企業のはずだったのに、急に巨額先行投資の効果が顕在化し、高収益企業に変貌した。そんな企業がいくつも登場しようとしている。
ネット、より広くはITを介した産業革命が起きている時代に、従来の延長線上での思考の効果が落ちている。この点をよく考えないといけない。その前に、日本的な割安株投資の発想は捨てないといけない。
2018/08/26