川北英隆のブログ

大学の教員は何故安いのか

今日のネットニュース(朝日新聞)に「40代、貧困ポスドクの悲哀 時給バイト以下、突然クビ」というのがあった。「ほんま、安いで」と思うとともに、日本の教育とは何なのかを考えてしまう。
ニュースは次のページにある。
https://www.asahi.com/articles/ASM4T747JM4TULZU017.html
要するに、博士号を取得したのに就職口がなく、非常勤講師というバイトで暮らさざるを得ないという大学というか社会の切ない実態である。
大学の非常勤講師、専門的なことを教えるのだから、バイトといっても時給が高いのではないかと思うかもしれないが、その実態は、ネットにも書いてあるように、1コマ(普通は90分)の講義で1万円にならない。1万円を90分で単純に割り算すると、1時間6000円以上になるが、「でもね」である。
専門的なことを教えるのだから、講義の準備が必要となる。学生の指導が必要になるかもしれない。僕の場合で言うと、メールでの質問にいつでも答えていた。期末試験の準備もある。講義内容の理解度を試すのであれば、毎回学生に対する質問を考え、場合によっては採点しなければならない。
これら講義そのもの以外に必要な時間を含めると、90分の3倍くらいは当然かかるだろう。と、マクドやミスドのバイト以下の時給になりかねない。
そうそう、僕の場合、某超有名私立大学の大学院で非常勤を頼まれたことがあった。土曜日、わざわざそのために東京に来て、それも難しい質問をする学生の前で教えたのに、90分の講師料が1万円を割っていた。交通費も、こちらが請求するまで払ってくれなかった。他の非常勤講師も同じようで、「川北さん、馬鹿らしいので来年度から共謀して辞めようよ」と言われた。「そうだ、そうだ」というので、その来年度だったのか、1年間だけさらに続けたのかは忘れたが、いずれにしても辞めた。
今の大学の経営は、この安い非常勤講師で維持されている。私立はともかくとして、大学の授業料が安く設定されていること、国からの補助金の削減が続いていることが直接的な理由だろう。さらに言えば、常勤の教員の中には働かないのがいること、常勤の教員だけでは層が薄くまた時代の流れについていけないことから、非常勤を雇わざるを得ないのだが、講師料を安くしないと雇えないという事情もある。
そもそも、これは以前から書いているように、常勤の教員の給与も安い。文科省からは、「世界的な研究を」、「しっかりとした学生の教育を」と言われ、大学本部からは暗に「しっかりと事務作業や監督をしろ」と言われている。そんなスーパー教員がいたとしても、1000万円内外の給与では、よほど大学が好きでもないかぎり働かないだろう。世の中、常勤に対しても500万円程度しか払わない大学もあると聞く。
大学の事務もそうだし教員もそうだが、能力や働きで給与水準を決めるべきである。自分たちで(教員の専門分野が細分化されているため)能力の評価ができないのなら、外部との資金交流をもっと認め、それを評価の代わりとすべきである。当然、大学の基本給は安くなるだろうが、そこで浮いた資金を外部との接触度の低い基礎研究に回せばいい。
そうでないから、常勤の間で悪平等が働く。仕事をしないのが金銭的には合理的な行動となる。外部からの採用する場合、その壁が不条理に高くなる。非常勤に講義もしくは研究を委託する場合、買い叩く。これでは日本の大学は凋落の一途だろう。

2019/05/15


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