麻生さん、金融庁の2000万円不足報告書を受け取らないと言ったことが波紋を呼んでいるらしい。公的年金に関し、政府関係者で一番誠実なのは誰か。金融庁以外にないだろう。もちろん、表現の仕方に問題はあるのだが。
国民の老後に関する真実は何か。何回も書くように、公的年金だけで、それも(掛け金さえちゃんと納めていればの前提で)誰もが受け取れる基礎年金(6.5万円/月・人)だけでは、普通は暮らせない。これが厳然たる真実である。
この真実から議論を出発させないと、怒りではない錨を下ろしていない嵐の中の船のように、議論は言いたい放題、自分勝手なものになり、関西空港の連絡橋にぶつかり、大破するのが落ちだろう。
年金で暮らせるのか暮らせないのか、比較のため、生活保護を受けるとどのくらいもらえるのかを調べてみた。生活保護費は一律ではなく、住んでいる場所、年齢などで相当変化する。そこで検索し、事例をみてみた。次のサイトにぶつかった。
https://mane-navi.net/case/hogohi/
70歳以上の単身世帯の場合、東京都12.8万円、札幌10.7万円とある。田舎で暮らしていればもっと下がるようだ。次のサイトも参考になる。
https://seikatsuhogo.jp/shikyugaku/
ここには生活保護費のうちの日常生活の費用「生活扶助」の金額例がある。生活扶助だから、(そこまでは調べなかったが)生活保護全体の金額よりもかなり少ないのだろう。
地方都市において、68歳と66歳の世帯の例では、10万円から11万円になっている。これだと夫婦2人が基礎年金を満額受け取った場合の合計額を下回る。生活保護の場合、夫婦で暮らすと光熱費などの算定が、1人で暮らしても2人でもほとんど差がないというので、2倍した金額からカットされる。
いずれにせよ、基礎年金は平均的な国民に対し、最低限の生活を支えるために支給される社会福祉政策である。それでも、持家か借家か、単身か夫婦か、子供と一緒に暮らすか、都会か田舎か、旅行三昧したいか、家に閉じこもるかなど、個々人の生き方によって、基礎年金で暮らせるかどうかは様々である。多少趣味を持ち、お茶(お酒)をし、ちょっとばかり贅沢をすれば、不足する場合がほとんどだろう。
厚労省として、この真実を国民にきちんと説明するのが本筋である。それなのに、功労所のサイトに入ると、役人らしい公的年金制度の難しい説明が続いている。肝心の、個人にとって、将来いくらもらえるのか、それで生活できるのかどうかを見極めるのがきわめて難しい。
今回、生活保護の金額を調べたのだが、厚労省のサイトにはいろいろな条件ごとの明細金額が書いてある。それを読みこなす時間が大変なため、実際の役にはたたなかった。窓口で相談しろということなのだろうが、その窓口は多分混雑しているだろうし、こちらが生活保護を受けたいわけでもなし。多少の不正確さには目をつむり、地域別、世帯構成別の事例を示してほしいものだ。
この点、金融庁は正直に、平均的な老後生活像の1本勝負に出た。だから大騒ぎになったわけだが、厚労省の煮え切らない説明書きより余程親切だと思う。できれば、もう少し事例を示したほうがよかったのだろう。
公的年金に対し、「老後の生活を保障できないなんて、年金泥棒だ」と息巻く者もいるとか。それは見当違いである。基礎年金があるし、それで駄目なら生活保護がある。それらが嫌なら(生活スタイルなど、いろいろな趣味に合わないなら)、若い時に努力するしかない。政府もそうだし、公的な年金保険料を払う現役世代はましてそうだが、そんな老人のいろんな趣味に金を払ってまで付き合いたくない。
で、最後に麻生さんに戻る。先日、財務省でエレベータホールにいると、下りてきたエレベータから何人かが出てきた。そのエレベータに乗ろうと近づくと、誰かがこちらに手を上げた。知り合いに「やあ」と挨拶されたのかなと思い、目をやると、一団の中に小柄な浅黒い顔の人物がいた。麻生さんだった。手を上げたのは付き人で、「下々の者、頭が高い、近寄るな」という合図だったらしい。「そうか、財閥の末裔にとって、2000万円も年金も、ともにホコリのようなものか」と思った。
2019/06/18