川北英隆のブログ

日本的バリュー株投資の嘘

バリューかグロースか、株式投資の世界で議論されることがある。バリューとは割安で放置されている企業の株のこと、グロースとは成長期待の高い企業の株のことである。恥ずかしながら(ひょっとして誇らしながら)、僕はこの意味をしばらく理解できなかった。
世間の常識ではグロースかバリューかの判断はPBR(株価純資産倍率=時価総額/純資産総額)でなされている。そして、PBRの低い、すなわちPBRの観点から高値まで買われていないバリュー株に投資するのが、PBRの高いグロース株に投資するよりもすぐれた結果が得られるとされる。
理解できなかったのが、単純にPBRで評価することの意味である。しかも、PBRに基づくバリューかグロースかの判定は、定期的に(たとえば1年間に2回)行われる。考えてみると、たとえばグロース、すなわち成長株かどうかが半年に1回、コロコロ変わるかもしれないなんて、常識的な理解の範囲を超えている。
もっと混乱を生み出すのが、投資の神様と称されているバフェットの投資スタイルがバリュー株投資とされることである。そのバフェットは一度買った企業の株式を長期間保有する。日本のバリュー株投資と同じだとは到底思えない。
そのバフェットが最近ではアップルやアマゾンに投資している。これらの株式のPBRはかなり高い。バフェットはPBRの水準でバリューかグロースを分類しているわけでないはずだ。
さらに言えば、PBR1倍割れとは、その企業が投資家の期待に応えていないことを意味する。詳しくは述べないが(「市場ではなく企業を買う株式投資」の第1章を参照のこと)、PBR1倍割れの企業とは、現在の事業の利益率が調達した資本コストに達していないダメ企業のことが多い。しかも、それらの企業ではPBR1倍割れの状態が過去から続いている。
そんな株式に投資することが、短期的な利ざやを狙うのならいざ知らず、本来の投資家として健全なのかどうか。バリュー株投資と言いながら、短期で売買を繰り返すだけではないのか。
そこで、ある時点でPBR1倍割れの企業の株式を買い、その後長期保有したとして、市場平均よりも高い投資収益率が得られるのかどうか計算してみた。結果は、高い投資収益率を得られなかった。正確に書くと、PBR1倍割れかどうかで投資対象を決めることに、長期投資の場合、何の意味もなかった。
以上をまとめれば、日本で言うところのバリュー株投資とは、本来の意味での(バフェット的な)バリュー株投資ではない。本来のバリュー株投資とは、その企業の売上高や収益構造を分析し、一般の投資家がまだ気づいていないすぐれた特徴を把握することで、株価的に十分に評価されていないと判断し、投資することである。
PBRだけで(もしくはそれに近い指標だけで)、長期投資に値するバリュー株が見い出せるなんて、そんなアンチョコはありえない。

2019/06/30


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