川北英隆のブログ

日経新聞は投資家をくじく

投資家が購読する新聞として日経を欠くことができない。僕も大学時代からずっと購読している。このように日経のファンなのだが、応援するには、どうも行儀がよくない。これは僕だけの評価ではなく、識者にほぼ共通している。この点に大いなる留意が必要だろう。
何十年もの恩義のある日経ながら、以上のことを書こうと思ったきっかけがある。(恩義があるからこその正論かもね)。今日(11/7)の一面右下に「フリー、来月上場へ」との見出しが踊っていたからである。
フリーはクラウドを活用した会計ソフトのトップ企業である。このフリーがマザーズに上場することが承認されたことは、今日の株式市場の引け後に公表される予定だった。
その情報をいち早く記事にすることで、経済分野での「特ダネ」の日経新聞を誇りたかったのだろう。誰が漏らしたのか、菓子箱の下に金貨が敷いてあったのかどうかは知らない。
「でもね」である。そもそも、この会社について、上場されることを半日早く知ったところで何の足しになるのか。この記事を書いた記者に言わせれば、「株式市場の追い風になる」ということかもしれないが。
最近の日経、相場を煽る記事が多い。煽るというのは言い過ぎかもしれないものの、僕の知るかぎりの識者の一致する意見は、「株式市場に対して、短期的に価格上昇を促す材料を重視する傾向にある」とのことである。
つまり、明るい材料を大きく書く。暗い材料は、それが事実として公表されれば避けて通れないものの(それを隠せば某国並みか)、推測を含む記事は最小限に抑える。だから、日経を読むかぎり、景気が良く(そんなに悪くなく)、株価が常に上昇傾向にあるように見えてくる。某氏が言うには、確か「リーマンショック前後から記事の傾向が変化した」とか。
もちろん、新聞に独自の方針があってかまわない。しかし、それは「論説」でのことだろう。新聞社にインサイダー情報に関する罰則が適用されないものの、「特ダネ=早耳=インサイダー的な情報の有無が株式投資での成功か失敗かを命運を決める」的な態度を示されると困るのである。客観的を装った記事に偏りがあると、それこそ罪であり、大変困ったことになる。
僕が困るわけでない。新聞の癖を知っていると、その裏を書くことで利益が得られるから。困るのは、そんな癖というか状況を知らない普通の個人の投資家である。極端には、「日経新聞のような早耳がないと儲からない」、「のこのこ株式に投資したのでは、早耳筋を儲けさすだけ」と思われると、「長期的な企業の成長を楽しめる株式市場に積極的に投資し、財産を築き、できれば老後資金にしてもらおう」との政府の方針に対し、「そんなんで株式投資が儲かるとは、嘘やろ」と疑いがかかってしまう。
以上の意味で、今日のフリーの記事はどうなのか。それも、一面に掲載するものでない。日経のあり方として、上場の公表がなされた後、フリーとはどのような企業で、どのような期待ができるのかをきちんと書くのが本筋だろう。
上場予定の直前での「特ダネ記事」、インサイダーまがいが横行していた昔ならいざしらず、今どきの新聞の役割ではない。新聞も記者も変わらないといけない。そうでないと、投資家はもちろん、一般読者の期待と信頼も損ねるだろう。

2019/11/07


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