川北英隆のブログ

高度成長と株式投資での成功

金融庁が金融リテラシー(金融に関する知識や判断力の習得)に力を入れている。預金しても金利が付かない時代が背景にある。「まともな金利を付けるのが先やろ」かもしれない。それに、いちいち指図されることに対する反感もあろう。「でもね」である。
今は昔になったが、預金に対してまともな金利が付いた時もあった。覚えているのは郵便局(今のゆうちょ銀行)の定額貯金である。10年間預ければ倍以上になって返ってきた時代があった。10年間で倍になるには、金利は年間7.2%ないといけない。郵便局が扱っていたので預金額に限度があったものの、かつては管理がルーズだった(多少オーバーしても預かってくれた)と聞く。「今でも別の意味でそうや」だが。
預金だけではない。誰でも知っている、そして誰でも思いつく企業の株式を長期間持っていれば、一財産築けた時代があった。1960年代、70年代は電化の時代であり、車が普及した時代だった。そこで、これらの分野での著名企業だった松下電産(現在のパナソニック)、ソニー、トヨタ自動車について、その株価と投資収益を調べた。
期間は、1961年7月(正確には高値を付けた7月中旬)から84年12月末までとした。61年7月とは、代表的な株価指数、日経平均株価が当時の高値、1800円台を付けた時である。その後7年間以上、市場はその高値を抜けなかった。また、84年12月末とは、日本がバブルに突っ込んだ80年代後半の直前である。高度成長と、その余韻が残っていた期間でもある。
まずは日経平均株価である。この間(23年間と少しで)、6.3倍になった。年率に直して8.1%の上昇である。日経平均株価には配当が含まれない。だから、本当のところ、市場の平均的な投資収益率はもう少し高かった。
では、松下電産、ソニー、トヨタ自動車はどうだったのか。それぞれ7.9倍、17.0倍、30.6倍になった。年率、9.2%、12.8%、15.6%に相当する。庶民が日常的に接する家電を扱っていた松下電産は、株式投資を知ってさえいれば、誰でもすぐに思いついたはずである。その松下電産でさえ(「さえ」とは失礼な表現だが)、市場平均を上回り、財産を築くにはもってこいだった。少し先を読み、「これからは自動車の時代やろ」と思ったのなら、トヨタ自動車であり、これなら大儲けだった。
「そんなん仮想の話、フィクションに近いのでは」との疑問が生じるかもしれないが、僕の知っている範囲でも松下電産やトヨタ自動車の株式を持っていた個人が何人もいた。実際、両社の株主数は10万人を超え、当時としては大人数だった。
現在、株式市場における企業の選択は当時ほど簡単ではない。日本の場合、完成品を製造し、世界的に活躍する企業とは、トヨタをはじめとする自動車産業くらいか。その自動車も、今後を想定するとエネルギー革命や自動運転の大波に晒されようとしている。
とはいえ、探せば素晴らしい企業が日本に点在している。ヒントは、新聞をきちんと読むこと、ネットを検測すること、そして体感することから得られるはずだ。

2019/11/10


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