僕は株式投資とはプラスサム(plus sum=投資家の利益を合計するとプラス)のゲームというか(ゲームという表現には語弊がつきものなので)、行為だと信じている。競馬や宝くじなどの公営賭博はマイナスサム(参加者の利益の合計がマイナス)である。
そんな株式投資にも注意が必要となる。新聞を眺めていると、株式の売買の記事にいろんな投資スタイルが混在している。本当のところ、投資スタンスを定めないとせっかくのプラスサムが活きない。
長期の観点から株式を買わないかぎり、プラスサムの実現は難しい。つまり、今日買って明日売り、大儲けしようなんて思っても無理である。短期の売買では、ちょっとイメージすればわかるように、「私の買いもしくは売りは、誰かの売りもしくは買い」であるから、買い手と売り手の損得を合わせるとゼロになる。この時点でゼロサムである。さらに、証券会社などへの手数料を考慮するとマイナスサムになってしまう。
数日前の新聞に、ソフトバンクグループを、「3月の安値で買っていたら倍になった」と書いてあった。これは真実なのだが、買えた投資家がいたら売った投資家もいる。すべての投資家がまんまと安値で買えるなんてことはない。その時に買えたとして、今まで持っているのは何人いるのか。たとえ持っていたとして、どの時点で売るのかをイメージしないといけない。明日にでも下がっているかもしれないことだし。
つまり、先の記事のようなことを書いていると、新聞記者が短期売買を煽る結果になりかねず、マイナスサムの世界に誘う。記者自身、短期売買と長期投資との区別がついていない。というか、そんなことを考えたことがないのかもしれない。
株式投資がプラスサムであるのは、経済全体の成長を受けて企業業績が伸び、それを反映して株価が上昇するからである。長期投資でないと、経済全体の成長と企業業績の伸びを享受することは難しい。そんなに長くない投資でラッキーにも株価が上昇することもあろうが、その反対のアンラッキーもある。
では、どんな企業の株式でも、長期に持てば利益が得られるのか。この考え方も間違っている。
実際のところどうなのかを見るため、リーマンショックの直前の2008年8月末から(それなりに株価が高かった時点から)、この4月末までの12年間近く、株式を保有したとして、高い投資収益率の得られた企業と、そうではない企業を選び出してみた。4月末としたのは、5月某日、さるところで講演したからである。また、全上場企業を対象にしても仕方ないので、当時の市場全体の0.1%以上の時価総額、つまり4000億円の企業とした。
結果、上位には先端的な技術を有する設備投資関連・部品関連の企業、医薬品、携帯電話関係3社、その他特色ある経営をしている企業が目立った。ちなみに、投資収益率トップはキーエンス、2位は中外製薬で、飛び抜けて高かった。
これらの企業について、携帯関係3社は規制で守られているので当然だが、他の企業はある意味、製品サービスや経営スタイルの独自性や高シェアによって他企業の参入を阻み、高い利益率を享受している。このため、業績が大きく伸び、株価が跳ねた。
逆に、投資収益率がマイナスの企業もある。原発事故のあった電力会社と業界、金融機関、鉄鋼をはじめとするかつての日本を支えた重厚長大企業群、家電、カメラ、そして自動車の下位企業が目立つ。家電、カメラ、自動車では投資収益率が高い企業も散見されることから、同じ業界でも「良い子、悪い子」に二分されつつあるようだ。
以上のリーマンショック以降の分析は参考情報であり、今後を保証するものではない。とはいえ、過去を見て将来を考えることも重要である。
どんな企業に長期投資するのか。1つの企業に絞り込むのは危険である。少なくとも複数の企業に分けて投資するのがお勧めである。長期投資だから、じっくりと企業と経営を見定めても遅くないだろう。
2020/06/08