川北英隆のブログ

経団連会長企業の寂しい現実

最近、複数の場所で議論していると、ある共通項があった。それは、かつて民間の権威という良識というか、その象徴だった経団連に対する批判の強さである。
議論をしたのは大手民間企業の中堅社員であり、その卒業者たちである。だから、経団連のことは内輪のこととして評価しているはずである。
議論の方向は、経団連が打ち出す政策提言が矮小化していることに向かった。例えば、自分たち経団連企業の利益を一番重視していることや、社会の変化を後追いしているに過ぎないことである。また、民間企業に対する統制力の欠如も批判の対象となっている。
事例を挙げると、大学生卒業予定者に対する就職活動の解禁の方法と時期に対して、経団連は何もできなかったに等しい。
そもそも就職活動に採用者側としてルールを設けることが正しいのかどうかの議論はあるのだが、それはともかくとして、打ち出したルールは無視された。経団連の力の衰えである。同時に、社会的な賛同を得るルール設定をできなかったからだろう。新卒の一斉採用がナンセンスであり、今の大学とその卒業制度が時代遅れであること(一言で表すと、大学に入りさえすれば、後はアルバイトに明け暮れても卒業できること)について、経団連は最近まで何も言及してこなかった。
思うに、今の経団連企業では、もっとはっきりと言えば会長企業では、日本企業全体を引率できない。その証拠の1つを、会長企業の時価総額(6月末現在)に求めてみた。
会長を経験した企業のうち、トヨタ自動車の時価総額は22兆円である。日本で圧倒的トップだが、グローバルではどうなのか。100兆以上の企業でないとグローバルにはトップ企業ではない。自動車業界においても、バブルが生じていると批判されつつも、電気自動車のテスラがトヨタを抜いた。競争の激しい業界において、トヨタにも生き残りのための競争が待ちかまえている。
最近の会長を経験した企業はどこなのか。現在から過去に遡っていくと、日立、東レ、住友化学、キヤノン、トヨタ、東電、日本製鉄、東芝、日産化学となる。このうち、現時点での時価総額が1兆円を超えるのは、日立、キヤノン、トヨタ、東芝だけである。つまり、東レ、住友化学、東電、日本製鉄、日産化学は1兆円に満たない。
今やグローバルに見て、1兆円(約100億ドル)に届かない企業は中小企業である。それも、経団連の会長輩出企業とは、設立後数年のベンチャー企業ではない。伝統がある。客観的に評価する者なら、「そんな投資家に評価されへん経営を続けていて、よう日本企業や経済を指導しようと思うたな」となろう。
さらに言えば、1兆円を超えている企業のうち、東芝は社会問題化した不祥事を起こした。キヤノンもカメラとプリンターが斜陽化し、事業の再生が必須の課題となっている。
グローバルな視点からまともに見ることができるのはトヨタと日立程度か。そのトヨタは、先に述べたとおり電気自動車や自動運転の分野で壮絶な競争にさらされている。日立も、事業を集中してきたものの、欧米、そして中国の同業他社との競争が待ち受けている。だから、「日本経済のため」と、悠長に語る場合ではない。その状況にかかわらず何か語れば、自分自身の生き残りに直結しかねず、大義とはずれてしまうのが落ちだろう。
経団連、何のために存在するのか。2000年以降、経済界のトップにも、経団連の守旧的なスタンスに対する批判があった。今は経団連を批判しても可哀そうくらいの位置づけとなり、「隣の旧家、屋根瓦が痛み、庭の手入れが悪いね、どうしゃはったんやろ、ご主人病気やろか」程度の扱いになっているような気がして仕方ない。

2020/07/25


トップへ戻る