三井住友信託銀行とみずほ信託銀行が株主総会での議決権行使の事務でチョンボをした。郵便局から「特別に1日早く届けてもらった」議決権行使書の集計において、「普通なら行使期限後に届くはずだった行使書」を「期限切れ、無効」としていた。
繰り返すようだが、信託銀行側が「無効」としたのは、「1日早く届けてもらっていた」との事情からである。翌日の新聞を今日見るようなものか。でも、特別かどうかはともかく、「見てしまったもの」を見なかったことにするのは、法律が許さない。
新聞やテレビの報道は信託銀行のチョンボを叩いているのだが、どことなく叩く力が弱いようだ。今回のチョンボ、一義的には信託銀行の落ち度なのだが、「特別に1日早く届けてもらった」のは、6月末に株主総会が集中するからである。大量の議決権行使書を集計するには、通常の事務処理をしていたのでは間に合わない(それが大いに懸念される)。そんな事情が裏にある。
議決権行使はインターネットでもできるのだが、企業も投資家も、議決権行使のネット化に二の足を踏んでいる。新聞(日経新聞)を読む限りでは、その事情がいろいろとあるらしい。
「でもね」と思うことがある。そもそもの原因は、日本に3月期決算の会社が多く、その株主総会が6月末に集中していることにある。決算期を分散しろというのは無理難題ながら、株主総会を分散することは法的に可能である。
決算期を変えずに株主総会を分散するにはいくつかの方法がある。今年、コロナ禍で6月末の株主総会の開催が危ぶまれたため、企業もいろいろ検討してきたはずだ。
一番手っ取り早く、かつ混乱が少ないのは、配当の基準日(いつ現在の株主に配当を支払うのか)を現在と同じ3月末としつつ、配当金額の決議を株主総会で行うのではなく、取締役決議とすることである。その上で株主総会の基準日について、各社が自分達の実情や方針を勘案しつつ、3月末からずらせばいい。そうすれば、7月でも8月でも、好きな日に株主総会を開催でき、議決権行使の事務に負担がかからない。
問題は、配当の決議を株主総会でしなければならないのかどうかである。この点、絶対に株主総会マターだとする根拠に乏しい。もしも取締役会が配当に関して不適切な判断をしたのなら、株主総会での取締役選任議案に反対票を投じればいいだけである。
そもそも、配当性向(利益の何%を配当するのか)について、日本企業の多くは横睨みで「30%程度」としている。この根拠の薄い配当政策を株主総会が毎年承認している。ということは、株主総会においても不適切な配当の是正は無理だった。つまり、配当政策は株主総会マターだと主張したところで、実態が伴っていない。
言い換えれば、配当政策はきわめて重要、だから株主総会で決めるべきとの主張は形式主義そのものである。その形式主義に沿うために信託銀行は無理をした。プロ投資家も6月末株主総会のいろいろな議案を十分に吟味する時間がない。ホテルなどの宴会場としても、株主総会の6月末は書き入れ時なのだが、もう少し分散してもらった方が人手などの面で嬉しいに違いない。
株主総会が集中するため投資家の注目が分散してしまう、だからラッキーだと、企業側だけが喜んでいる。そう思えて仕方ない。
2020/09/25