川北英隆のブログ

東証システムダウンの雑感

昨日(10/1)、東証での株式売買が終日停止した。取引システムがダウンしたためである。バックアップ体制も作ってあったが、それも機能しなかったとか。僕にもメディアから電話が複数本あったので、答えておいた。
東証によると、壊れた部分(相場記憶用のディスク)を交換し、手動で再起動をかければ取引の再開が可能だった、しかし売買注文を出す証券会社側に混乱が生じかねないから、終日売買停止としたとか。
先進国において、取引所のシステムが終日ダウンしたことはないと記憶している。日経新聞によると、15年のニューヨーク証券取引所で全取引の中止が3時間半、19年のロンドン証券取引所で主要銘柄の取引遅延が1時間40分あったとのこと。終日となるとシンガポール取引所に事例があるそうだ。
なお、大阪取引所での先物関係(デリバティブ、現物からの派生商品)の売買のシステムは別物なので機能し、取引が続けられた。とはいえ、株式の現物取引があっての派生商品だから、片肺飛行であり、乱高下は避けられないし、実際にそこそこの乱高下だったらしい。
メディアからの電話は、「影響は、東証の信頼性は」という類ものだった。
影響について、月初だからファンドの定期的なリバランスなどがあったかもしれないので、それができなかったかもと指摘しておいた。また、投資信託(売買停止措置になった)を含め、換金売りができなかった可能性である。月初なのと、他の市場が荒れなかったので、切羽詰まった換金は僅少だっただろうが。
加えて伝えたのは、売買停止が1日で終われば、投資家への影響は限定的だと。短期で売買して儲けようなんて、株式投資としては邪道である。もちろん、そういう売買のおかげで一般の投資家がいつでも売買できるわけだが、では短期売買が1日不可能だったしたとして、影響はというと、大したことがない。どうせ短期売買では、儲けた者がいれば、損した者もいる。合わせればちゃらに近い。相場が大荒れだったとすれば別物だが、幸い昨日は落ち着いていたことだし。
東証の信頼性については、もちろん影響がある。というか、システムを手掛けた会社(今回は富士通らしいが)を含め、日本のシステム技術への信頼性が揺らいだのではないだろうか。また、東証が混乱を恐れた証券会社の発注への影響も、裏側から見ると特定の証券会社のシステムがお粗末だと東証が判断していたからかもしれない。証券会社自身、発注のバックアップ体制をしっかり取っていれば、東証として再起動の意思決定ができたかもしれない。この意味で、日本全体のデジタルリテラシーの不足が懸念される。
もう一点、取引停止に関する情報伝達が遅かったのではないかとの質問もあった。例えれば、電車が事故で止まった時のことを思い出せばいい。どこでどうなって、今はどうしているとの情報を早く知らせて欲しいと思うのは人情である。その情報が伝えられたところで電車が動くものではないが、「止まっている」だけの情報では不安である。そう答えておいた。
僕の答えをメディアが記事のコメントとしたのかどうかは知らない。ニュアンスを含めて正確に伝えたとは思えない(長々とコメントを書けるわけもない)ので、以上を補足的に書いておく。
最後に、日経の記者から別件でメールがあり、相場表が「-」だらけの夕刊が配られています」とあった。「そらそやな」というので、今日の朝刊の相場欄を記念に撮っておいた。

2020/10/02


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