最近、「トヨタがまだトップなの、それもダントツでの。他社は何してるのや」と思う。この事実こそ、日本企業の覇気のなさを象徴している。何のことか。株式市場での時価総額である。
このことを確認するため、1986年以降の時価総額の推移を調べてみた。実は、1980年頃からのデータが欲しかった。しかし、手元に適当なデータがなかった。それと調べていて気づいたのは、2000年代に入り、大手の銀行が合併して名前を変えたため、僕の持っているデータベースでは(多分)簡単に時価総額が調べられない。
それはともかく、少し手段と記憶を尽くし、1986年以降の時価総額のトップ企業を確認することができた。その結果(年末、上位5位まで)を示しておく。なお、単位は兆円、銀行は概算値である。
1986年 東電10.4 トヨタ5.9 野村証5.4 住友銀4.5 富士銀4.1
1989年 NTT22.9 興銀13.1 三菱銀9.9 住友銀9.8 東電8.1
2002年 トヨタ11.5 ドコモ10.9 NTT6.9 ソニー4.6 武田薬4.4
2007年 トヨタ21.8 三菱UFJ 11.5 任天堂9.5 NTT8.8 ドコモ8.5
2012年 トヨタ13.8 三菱UFJ 6.6 ホンダ5.7 ドコモ5.4 JT4.9
現在 トヨタ24.3 ソフトバンクG14.1 キーエンス12.6 ドコモ12.5 ソニー11.6
ここで、1986年とは日本のバブルの初期、1989年とは株価的にバブルのピークだった。2002年とは、バブル崩壊後日本が体験した一番暗い年であると同時に、トヨタが時価総額でトップになった年である。2007年はリーマンショックの前年、2012年はアベノミクスが始まった直後である。
見てわかるように、現時点を除き、トップ5に位置する企業とは、トヨタを除いてほんどが規制産業である。銀行と証券は2000年代に入るまで、規制産業の最たるものだった。電力、通信は自由化に向かっているとはいえ、まだまだ保護されている。
そんな状況の中で名前を見せるのが、ソニー、武田薬、任天堂、ホンダ、キーエンスである。ソフトバンクGもこの仲間に加えていいかもしれないが、通信を取り込み大きくなったので、規制を上手く利用したと言うべきかもしれない。
現在(先週末)、ようやく新しい企業がトップ5に台頭してきたともいえる。5位に入らなかったが、ファーストリテイリング(ユニクロ)、日本電産などの名前もある。
とはいえ、トヨタが18年間トップを続け、リーマンショックの前年以降、2位企業をダブルスコア近く引き離している。
トヨタがダントツで日本の代表企業に地位を守り続けていることに対して、賛辞を贈るべきだろう。他方、日本の他社は何をしているとかと落胆する。
象徴的なのは、電気自動車のテスラがトヨタをあっという間に抜き去り、今や時価総額4641億ドル、つまり50兆円に迫り、トヨタのダブルスコアになったことである。そのテスラでさえ、アメリカではまだ小さい。アップルの時価総額は2兆ドル(200兆円)台を超えている。これにマイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグル)が続き、1兆ドルを超えている。
テスラをはじめ、アメリカの株価をバブルだと批判するのは容易である。直視しなければならないのは、新しい企業が次々に登場し、成長を遂げ、時価総額上位に顔を出していることである。トップの入れ替わりもそこそこ生じている。かつて、1990年代以降を少し調べると、エクソンやマイクロソフトがトップだったこともある。さらに遡ると、IBMも登場するだろう(調べていない)。現在トップのアップルでさえ、油断していると抜き去られる可能性大である。
言えることは、アメリカを代表する企業の世代交代が激しい。新しい名前の企業が次々に登場する。これに対し、日本には新しい名前の企業が乏しい。あえて言えば、上で挙げたキーエンス、ファーストリテイリング、日本電産くらいか。このうち、キーエンスと日本電産は最終消費者を対象としていない。だからトップクラスの規模は難しい。つまり、トヨタの地位を奪う企業がなかなか見当たらない。今のままでは、地位が逆転するのは、トヨタの経営が電気自動車に負けた時だろうか。
このような日本の現状から脱却するには何が必要なのか。機会を見つけて詳しく述べたいが、とり急ぎ述べると、独創的発想とリスクを恐れない経営と、失敗を尊び、そこからの学びを支援する社会だろう。逆に言えば、終身雇用に守られた特定の企業文化の中で、経営トップを目指す日本的サラリーマン文化の中では、ほとんど何も生まれない。一言で表現するなら、空気を読まない経営者と、それを助ける社会が必要である。
思うに、明治から第二次世界大戦までの日本の、転職を厭わない文化の良き部分を取り戻す必要があろう。江戸時代にまで戻ると、武士世界は終身雇用のサラリーマンのようだから、手本にならないように思う。
2020/11/22