日本銀行が株式(正確には上場投資信託=ETF)を購入して久しい。白川総裁時代の末、2012年12月に始まったから、10年が経過したことになる。当時、株価が低迷していたため、投資家心理を明るくさせることに目標があったとされる。
日銀に代表される中央銀行(札を発行する銀行、銀行の銀行)が企業の株式を保有するのは、先進国では日本以外にない。そんな異例の政策を日銀が採用したのは何故なのか。
1つには、過去に(1964年に)日銀が間接的に株式を買い入れた歴史がある。共同証券という株式買い入れのための組織を臨時に作り、当時の株価下落を支えたのである。まだ先進国に到達していなかった日本だから可能だったのだろう。
もう1つの理由は、こちらが本命なのだが、投資家が株式保有に尻込みする状態、別の表現を用いると株式投資に対して過度に高いリスクプレミアムを要求する(すなわち、たたき売り的にならないと買わない)状態を普通の状態に戻すため、日銀は株式を買い入れたのである。物価上昇率の目標を2%とした「超が2つ、3つの付く金融緩和」の一環でもある。
もっとも、株価と物価とにどのような関係があるのかは不明であるのだが。たとえば現在、アメリカの株価は史上最高値を更新している。しかし物価は大して上昇していない。
もう1つ例がある。1980年代の後半、日本の株価は史上最高を更新していた。しかし当時の物価に過熱感はなく、日銀をすっかり油断させてしまった。結果は地価や株価にバブルが生じてしまった。これが、90年代から現在まで続く、日本経済の長い衰退の出発点である。
今、日本の株価が元気を取り戻している。30年ぶりの高値水準にある。日経平均株価の最高値、3万9000円台まではもう少し、3割ちょっと上昇すればいいだけの距離でもある。むしろアメリカの株価がバブルではないのかと懸念されているように、日本の株価水準も、「コロナがピークアウトした時、見たこともないようなパラダイスが広がっているのではないか」との期待先行で上昇している。
そんな現実において、日銀が株式市場でどのように行動しているのか。1月に入っても日銀の株式購入はストップしていない。さすがに1回当りの購入金額は減らしているのだが、1/4にも500億円購入している。
計算してみると、日銀が保有する株式は47兆円近くに達している。市場全体の6.6%を超えた。それでも購入を続けているわけだから、「そんなに大量の株式を保有して大丈夫かいな」と心配の声が高まっている。
日銀は530兆円という、日本のGDP(国内総生産)に相当する膨大な国債を保有している。でも国債には満期がある。だから時の経過とともに(新たに購入しなければだが)、国債保有額は減少していく。これに対して株式には満期がないから、どこかで売却しなければならない。売却という出口を積極的に見つけなければ、先進国としての異例の中央銀行であり続けることになる。
では、具体的にどのような出口があるのか。
1つ目は、昨春に書いたように、コロナ対策として国民に10万円を配るような場合、現金に代えてETFという投資信託を配る方法である。政府が日銀からETFを買い取り、それを国民に配ることになる。国民は証券会社に口座を開設しないといけないが。
2つ目は、国民にETFを安く販売する方法である。公募することになる。安くする代わりに、1年などの期間を設け、売却することを制限すればとのアイデアも出ているらしい。
3つ目は、日銀が剰余金を毎年国に上納しているが、その上納をETFで行う方法である。ETFを上納された国は、頃合いを見計らい、それを市場で売却することになる。
4つ目は、公的年金が日本株を買い増す時、日銀から買い入れる方法である。どうせ公的年金は日銀が保有するETFとほぼ同じ銘柄構成で日本株を買っているのだから、市場から買うのと日銀から買うのとに大差ない。
5つ目は、上場企業が自己株式を市場から購入する時、購入先に日銀を含めることである。もっとも、自己株式を積極的に買うのは優良企業が多いから、日銀に残った株式の質が劣化してしまう危険性がある。
最後は、日銀がこつこつと市場で株式を売却する、ごく普通の方法である。これだと市場の株価を抑えてしまいかねない。だから市場関係者が心配するのである。
いずれにしても日銀が保有する株式の金額は大変なことになっている。「出口の議論は早すぎる」と粋がるのもいいのだが、もはや現実は大変なことになりつつある。粋がれば、かえって「ほんま、何も考えてなかったのと違うか」と疑われかねないし、「出口なし」というサルトルの著書を思い出させてしまう。
2021/01/10