誰かが僕に出自を問えば、「奈良や」と答える。とはいえ屯鶴峯を訪れたことがなかった。この地域、当麻寺や二上山が有名であり、また低い丘陵を越えて大阪(河内)へと通じているものの、奈良盆地の北側からは遠い。そんなことで今回、屯鶴峯に期待していた。
京都からどう行くのか。近鉄で八木(大和八木)まで出て大阪線に乗り換え、二上(にじょう)駅で降りる。これが最寄り駅である。駅を南に出て、西に歩けばいい。ただし上で書いたように大阪側に抜ける上で重要な地域だから、車道が邪魔になる。それをうまく避けながら屯鶴峯にアプローチしなければならない。
屯鶴峯のついでに大坂山口神社に立ち寄った。なお大阪は「大坂」と表記されている。この神社は名前のとおり、奈良側から見て大阪への第一歩に相当する。実は二上駅の北東側にも同じ名前の神社がある。この付近、かつて交通の要衝だったことがわかる。
神社から川沿いに歩き、国道165号線を横切り、南南西に伸びる県道に入る。歩道があるので問題ない。
丘陵地帯へ入る手前にコーワ研磨材工業の工場がある。中学校1年生の時だったと思うが、地理の先生(野村先生)の案内でこの付近に柘榴石(ガーネット)の採集に来たことがある。家には当時採集した柘榴石が残っているとはず。豆粒より小さなのが採集できた。その後でサンドペーパーの工場を見学した。柘榴石を砕き、研磨材にしている。工場では金剛砂と呼んでいた。
柘榴石は二上山の火山活動の岩石に含まれる。風化により川に流れ、堆積している。それを中学生の時に採集した。今回通ったところ、かつての風景が残っておらず、新しい住宅地が広がっていた。採集に出掛けたのが60年近く前だから、変貌は当然なのだろうが。
その工場を過ぎ、池をすぎると車道の左に駐車場、右に階段がある。階段が屯鶴峯の入口である。階段を上がり、右手に登ると屯鶴峯の名のとおり、白い岩がよく見える。
問題は屯鶴峯の最高点(154メートルのピーク)へのルートである。地形図をよく見ると屯鶴峯は東西の2つの稜線に分かれている。最高点は東の稜線にあるので、その稜線上を歩こうと思ったのだが、岩場になっていて、たどりにくい。「こんな低山で岩場から滑り落ちたら恥」、「岩がすり減っていて、天然記念物をこれ以上傷つけるのもねえ」というので、西の稜線をたどった。
灌木の間の道をたどり、150メートルのピークから東西の稜線を分ける小さな谷に下りた。と、そこに大きな洞窟がある。3つ見つけた。旧日本陸軍の地下壕だとかで、水が滝状に流れこんでいるのもあった。
そこから谷を渡り、灌木の中の東斜面を直登して最高点に達した。送電塔が建っている。奈良盆地の展望もある。ピークから少し北に歩き、西に下る。送電塔の巡視路になっている。下り切ると、先の谷の少し下流部である。そこから屯鶴峯の西側の稜線に登り返し、峠からそのまま西に下った。比較的大きな谷に出る。橋を渡り、次の目標、寺山の登り口に達する。
屯鶴峯、低山ながら、道や道標が整備されず(それはそれでいいこと)、「ハイキングコースや」と安易に思っていた僕にとって、戦時中の洞窟も加わり、ちょっとした冒険気分になれた。
写真、上は入口付近の高台から屯鶴峯を眺めたところ、下は旧陸軍の地下壕である。右の穴は向こう側が見える。
2021/02/20