日本が先進国の中で低賃金に属すと国民は気づき始めた。その証拠を1つ挙げると、昨日の日経新聞の広告欄(最裏面)に『安いニッポン』という新書の紹介があり、そのキャッチに「物価も賃金も安い国」とあった。
賃金水準の例として、まずは最低賃金である。日本は全国平均で902円とか。アメリカはというと(2020年1月現在、ジェトロ調べ)、地域によったバラバラだが、州ではワシントンが13.5ドル(1400円台)と一番高く、10ドル以上の州がごろごろしている。連邦政府が示す最低賃金は7.25ドル(800円弱)となっている。アメリカの大企業アマゾンに関して、賃金が安いとの騒ぎのニュースが、新型コロナ以降、目立つ。そのアマゾンでの一番安い時給は15ドルである。
次にOECD加盟国の統計を見ておく(2019年価格ベース)。日本の労働者の平均賃金(2019年)は38617ドル(400万円程度)であり、35カ国中の24位だった。国粋主義者にとってショックなことに、韓国(42284ドル)が日本よりも上である。アメリカはといえば4位、65834ドルとなっている。
日本より下の国はと見れば、日本人的感覚からして「当然やろ」的な国ばかりである。少しひねくれて見るのなら、イタリアやスペインなど、(どんなイメージかは知らへんけど)ラテンの典型的な国も日本より上にいる。これもまた、ラテン系と違って至極まじめに働くイメージの強い日本人にとって大ショックである。
付け加えれば、これは実感に近いだろうが、日本の2000年の賃金は38049ドルだったから、20年後の19年と大差なく、生活水準が上がっていないことになる。アメリカや韓国は当然ながら上がっている。つまり生活水準も上がっている。韓国からすれば、生活水準が日本を追い越したことになる。
このOECDの統計は平均値を示している。このため、賃金格差の大きな国では一般の実感よりも高く出る。一方、格差の小さな国(日本)では「その程度かな」となる。
かつて「ジャパン アズ ナンバーワン」と囃されたことを覚えていて、今でも経済大国だと信じている者にとって、この現実は大ショックだろう。いくら企業が儲けたところで、国民の多くはサラリーマンだから、賃金が上がらなければ仕方ない。
しかも、日本企業が儲けているのかといえば、残念ながら世界的地位の低下が著しい。鉄、家電、船舶などに残されているのは、今は昔の栄光だけに近い。世界的に元気なのは自動車くらいだが、電気自動車という嵐を乗り切れるのかどうかが問われている。
では、賃金が上がらず、かつての大企業に元気がない理由は何なのか。ここで、ある立派な経営者が嘆いていたのを思い出す。「国内は過当競争すぎて儲からない、海外での利益を国内ですり減らしている」と。過当競争になるのは国内で企業が潰れないからである。
何故潰れないのか。要因はいくつかある。1つは、儲からない企業が賃金を抑制する、つまり賃金を上げないからである。従業員の多くも人員整理が嫌だから(生活が不安だから)賃金抑制を承諾する。思うに、普段から手に職を付けるようにしておけば、他の好条件の職を見つけることができる。日本企業が駄目なら、日本に進出している外国企業は当然として、飛躍することを目指して海外でもいいではないのか。
もう1つの要因は、政府が名のある企業が潰れないようにしているからである。具体名は書かないが、経営立て直しのために役職員を送り込む例も頻繁である。合併を促す例もある。いずれの場合も事業や設備の多くは存続するか、減るにしても時間をかけた「軟着陸」となる。
一方、国内は人口減少から製品やサービスへの需要が減少している。企業とすれば海外展開が本筋なのだが、経営の傾いた企業に海外展開力がある(残されている)例は皆無か稀有だろう。だから、製品やサービスを国内で必死に売り込もうとし、その手段として安売りを用い、安売りを支えるために賃金を抑制する。と、出来の良い従業員からその企業を見切り、去っていく。悪循環である。
サラリーマンとして心がけることは、繰り返しになるが自己研鑽である。新たに社会人になる場合は、その決意が一層重要となる。とりあえずキャリアパスとして就職する。就職しても社会見聞を含めた勉強を怠らない。その結果として、勤めた企業の良し悪しを評価し、良いのならそのままもう少し勤め、社長を目指す。悪いのなら転職を目指す。残念ながら、何十年もの間、寄れるような大樹であり続ける企業ないと思うのが無難である。
2021/03/22