川北英隆のブログ

逆算の勧め

何日か前に「現代人は引き算が苦手」(日経)との記事があった。記事を読まずに見出しだけに反応してしまった。引き算が苦手かどうかは不明ながら、引くこと、つまり足さない発想は重要である。この引き算の発想は逆算に通用する。
ちなみに、金融の世界でも逆算が重要な役割を果たす。ノーベル経済学賞に輝いたオプション(選択権取引)価格の計算の基本は逆算である。
社会生活での逆算とは、結果や完了した状態を想定し、もしくはそれをイメージしたうえで、そこから「今、何をすべきなのか」を導く方法である。
一番身近なのはスケジューリングだろう。
近々一泊して旅行に行きたいと思ったとする。では今から何をすべきなのか。
まずは日程の決定である。混雑を(今であればコロナ感染リスクを)避けるため、土曜日に宿泊しないとすれば、どこかの平日を旅行に使わないといけない。仕事など、すでに入っているスケジュールを見つつ(さらには週間天気予報なども眺めつつ)、まず旅行日を決めることになる。以上はすべて、「旅行という結果」を想定したうえでの行動である。
その後は、決めた旅行日までに「やるべきこと」を決め、実行することになる。同行者を予定するのなら、その同行者との相談、宿泊場所の具体的決定と予約、さらには電車などの手配だろう。
このスケジューリングだが、裏側から見ると、「やらないこと」の決定と同じである。旅行日には他の用事を入れない。具体的にどこそこに泊まると決めれば、それ以外には(ほとんど)目もくれない。
あるいは、「この日と、この日はあかん」と引き算した結果、「この日しか旅行でける日がない」と決めることも多いだろう。宿泊場所にしても、「ここは1泊では無理」「このホテルは高いから無理」と、諦めによって具体的な旅行のスケジュールが決定することも多い。
この諦めが引き算の例である。「ここは趣味に合わない」と切り捨てることも引き算である。また、特定の日に特定の行動をすると決めれば、それに向かって余計なこと、それとは対立しそうな行動も避けなければならない。上で示した旅行であれば、旅行を楽しくするためには、普通の者にとって、その前の余計な支出を避けることになろう。僕の場合の山歩きであれば、前日もしくは前々日には過激な運動を自重している。
もっと先の計画にも逆算が活用できる。金融庁が試算してみせた、老後の2000万円資金不足問題が典型例である。結婚、子供の誕生、教育問題、家の購入も同じだろう。何年、何十年先を想定し、どういう状態になりたいのかをイメージし、そのための具体的な計画をスケジューリングすることになる。
何年も先のことに向かって綿密な手順を組み立てる者は皆無に近いだろう。周りの環境や条件が変化していくから、綿密に考えたところで無駄である。しかし、最低限の足し算と引き算だけはしておくべきだろう。引き算とは、「してはいけないことの排除」である。足し算とは、「しておかないといけないことの設定」である。
この最低限の足し算と引き算によって生活のコースが決まる。もちろん暴走や脱線することもあろうが(僕として省みると暴走はともかく、脱線が多かったなあと思う)、暴走や脱線したことを正直に認め、コースに戻ることが大切である。ボケ老人は、自分がボケているとは決して思わないことだし。

2021/05/18


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