6/25、東芝の提示株主総会が開催され、会社側としての取締役候補だった永山治氏(直前まで社外取締役・取締役会議長)と小林伸行氏(直前まで社外取締役・監査委員会委員)の2人が否決された。東芝の経営に対する株主側からの不信任である。
メディアで報じられているように、永山氏は今後の東芝にとってのアンカー役、つまり東芝の漂流を食い止める役割だった。それが失われた。株主は、永山氏と小林氏の両氏が「昨年7月の定時株主総会での議決が公正、公平だったのかどうかについて、監査委員会としていい加減な調査をさせ、それを取締役会の場で安易に認めてしまった」と判断したのだろう。
東芝は官僚的組織だった。多くの産業で見られたように、トップ企業は自らの意思を強く持ち、事業のフロンティアを切り開いていく。これに対して2番手(もしくはそれ以下の)企業は、政府が形成した護送船団方式(産業を保護育成するための温室)の中で、政府の意向を汲みつつ、トップ企業から置き去りにされないように追随し、あわよくば追いつくことを目標としてきた。
護送船団だから(護送船団の定義上)経営破綻はありえないし、一定の利益率が保証されていたわけだから、それをバックに従業員の待遇もいい。だから優秀な人材が集まった。
もっとも、2番手企業は事業と経営のことをあまり考えず、政府の顔ばかり見る。このため2番手企業がトップに迫り、抜くことは、よほどの経済環境や事業環境の混乱がないかぎりありえない。
日立や東芝などの重電事業の場合、電子計算機、電力設備、その発展形としての原子力事業などが国策の対象となった。このおかげで政府(この場合は通産省、今の経産省)の護送船団に組み込まれ、東芝は日立というトップの尻を追いかけたのである。
以上の体質が今日まで尾を引いている。何か事があれば、助けを求めるかどうかはともかくとして、まずは経産省の顔色をうかがう。一方で経営破綻なんて「東芝の辞書にはない」。日立に引き離され、三菱電機にも遅れ、東証1部市場から陥落するなんて、屈辱そのものである。だから粉飾決算に端を発した今回の危機において、上場維持、東証1部市場への復帰を最優先目標とし、その手段として虎の子だった医療事業や半導体事業を売り払い、さらに烏合の衆に近い投資家に対して第三者割当増資の引き受けを嘆願した。
その結果がどうなったのか。1つが、今回の株主からの不信任である。また現在の事業構成から光るものが失われた。何が残ったのか。政府(この場合は経産省)として手放したくない(原発の新設と廃炉に不可欠な)原子力事業である。また、ひょっとして量子暗号技術を磨けば玉になるかもしれない。後者の場合、その玉を磨く余力がどの程度あるのかどうかは不明だが。
思うに、政府として東芝が安全保障上重要な企業であるのなら、もはや東芝解体しかないだろう。重要事業や研究開発組織を政府肝いりの企業や組織(研究機関)に売却する。その他の事業はファンドなどに売却する。これでどうだろうか。売却後に残った現金は株主で山分けである。
以上の理由は簡単である。このまま東芝を放置すれば、ますます劣化する。当然、人材の流出をともなう。それを避けるためである。
もはや猶予できない段階に差し掛かっているのではないだろうか。そして、東芝自身に客観的に判断する能力はないから、政府が(今までのように)代わって判断し、その判断に沿った手続きを(政府として大好きな修飾語を使えば)粛々と進めることに尽きる。
2021/06/28