昨日(1/11、ワンワンワンの日)、東京証券取引所が今年4/4にスタートする株式取引所の新市場に関して、どの企業の株式がどの市場で取引されるのかを公表した。本来の株式市場のための第一歩と位置づけていい。
株式取引所の新市場とはなにか。現在の市場は、第一部、第二部、ジャスダック、マザーズの4つに別れている。それをプライム、スタンダード、グロースの3つに整理し直し、新装開店する。
名前の変更だけではない。プライムにはその何ふさわしい「質、量ともに高い企業」、グロースにも「成長の見込める企業」が入る。スタンダードは平均的な上場企業というところか。この区分けのための客観的な、すなわち数値基準も新しく作った。
蓋を開けて見ると(開ける前からほぼ分かっていたことだが)、プライムに1841社が属した。現在の第一部が2185社だから、8割以上がプライムである。「質、量ともに高い企業が日本にそんなにあったのか」というところだろう。今回の新市場と区分(株式市場の再編)に際し、企業側が「市場第一部上場のブランドを維持したい」「だからプライムに入りたい、残りたい」と主張し、要望した。関係者はその声に動かされたようだ。つまり、余程規格に合わない企業でないかぎり、プライムに入れる基準とした。規格に合わない企業であっても、「当面の間」(当面が何年なのかは未定)プライムに入れる経過措置も設けた。
その一方で、日本オラクルのように名実ともに優良な企業がスタンダードを選んだ例もある。よく考えれば就職人気の高いコンサルタント会社は上場していない。弁護士事務所も会計監査法人もそうである。日本銀行や役所もそうだった。
さらに言えば、東電や東芝に代表されるように、市場第一部に上場している大企業が迷走することも、最近ではしばしば起きる。今日のニュースを丹念に見れば分かるが、第一部上場のエデュラボが不適切会計のためにマザーズに戻され、このエデュラボに対して東証は「・・新たな問題が判明した場合には、・・追加的な措置等を講じる場合がある」と公表している。市場第一部(今後のプライム)に上場していたとしても油断ならない。
「市場第一部がブランドだ」と主張する企業は、まやかしか誤解している。市場第一部≒プライムは一流企業(組織)であるために必要な条件でもなければ、十分な条件でもない。企業はラベルではなく実力で勝負しないかぎり落ちぶれていく。実力があれば認められる。
とはいえ投資家にとって、どの市場に所属する企業なのかは、少しだけだが、重要である。投資先企業を選択する場合、どの市場をターゲットにするのか、その中から具体的にどの企業を選び出して投資するのかを決めるからである。また日本の場合、第一部に上場する全企業の株価に基づき、代表的な株価指数であるTOPIXが計算される。
さらに、「第一部に上場しているのだから立派な企業だろう」と誤解する者がいるかもしれない。杞憂かもしれないが。先に述べた「だからプライムに入りたい」との企業の要望は、この誤解につけ込もうという動きかもしれない。
この結果、市場の区分が意味を持つ。株価指数に関してはTOPIXも改良され、プライム相当の基準をクリアした企業で構成されるようになる。つまり、今までTOPIXを構成していた企業であっても、今後は外されていく。とはいえ時価総額で評価すると(貴金属の純度みたいに)99%、今でのTOPIXと変わらない。
99%今までのTOPIXと同質という貴金属のような設計の背景に、「継続性」の意識がある。東証の山道社長は「投資家にヒアリングした結果、指数の連続性を求める声が大きかったからだ」(1/12日経新聞7面)としている。
しかしこの投資家の声の投資家とはアセットマネジメント会社だろう。彼らの声が本来の投資家を代表しているとは言えない。TOPIXに投資して得られる収益率は冴えない。本来の投資家はもっと高い収益率を示す株価指数を求めている。つまり、プライムの名にふさわしい企業で構成されるプライム市場であり、そのプライム企業(全部、もしくはさらに選ばれた企業)で構成される指数である。
今回の新市場区分に関していくつかの文章を寄稿した。また取材にも答えた。「(プライムの)時価総額を段階的に引き上げ、最終的に1000億円くらいに」(1/12日経新聞3面)との意見もその一環である。
もう1つの意見は東証第一部≒プライム企業のPBR(株価純資産倍率)の低さというか、1倍割れの多さである。「半分前後の企業がPBR1倍割れ」であり、この状態がずっと続いている。PBR1倍割れとは、投資家の期待未満の稼ぎしかない企業であることが多い。そんな稼げない、言い換えれば投資家の資金を無駄遣いしている企業がプライムでいいのだろうか。
以上を踏まえ、「プライム市場は、グローバルな投資家を意識した市場改革への第一歩を踏み出した」「日本の株式市場をより良いものにするため、投資家としての要望が依然多い」と日本取引所のコラムに書いた。是非とも東証には、今回の改革の歩みを続けていってほしいものだ。
2022/01/12