某雑誌に個人金融資産の状況について寄稿した。日銀によると、21年9月末の個人金融資産が2000兆円に迫った(正確には家計の金融資産が1999.8兆円になった)ことを節目に、その構成すなわちポートフォリオの特徴を調べた原稿である。
ここで家計とは個人事業分を含んでいる。国民1人当りの金融資産を計算すると1598万円である。個人事業分を含むとすれば、そんなものか。ついでに借金を差し引いた純金融資産を計算し、それを国民1人当りに直すと1309万円になった。
さて、2000兆円の内訳をざっと眺めているだけでは、現預金が1072兆円、53.6%を占めていることが最初に目に入り、「日本の個人の現預金好きは相変わらずやな」となる。生命保険も225兆円、11.3%あり、現預金と生命保険を合わせた安全資産が2000兆円の約2/3に達する。
しかし細部を眺めると変化が感じられる。
1つは、現金と流動性預金の比率が高まり、定期預金の比率が低下していることである。銀行預金していたのでは、定期預金といえどもゴミ程度の金利しか付かない。だから現金で持つか、現金は危険だから、とりあえず銀行や郵便局に置いておこうとなる。この流動性の高い資産(つまり、いつでも何のこだわりもなく引き出せる資産)がたくさんあることは、銀行の経営を潜在的に不安定にする。いつ何時引き出されるかわからないからである。
2つに、株式や投資信託の増加がじわりと進んでいる。個人が保有する上場株式(日本企業の株式、時価)は136兆円、20年前の2.16倍、投資信託は90兆円、同じく2.76倍である。この間、株価は1.98倍になっている。株式や投資信託の増加が株価上昇を上回ったことは、個人が株式や投資信託を買い増したことを意味する。
3つに、海外株式を個人が積極的に買っていることである。この事実は、日銀のデータだけでは不明に近い。日銀のデータでは、海外株式は投資信託、年金受給権、対外証券投資などに分かれて入っている。そこで年金受給権の一部を構成している確定拠出年金のデータを見ることにした。
確定拠出年金とは何か。サラリーマンの場合、勤務している企業に制度として導入されることが多くなった。企業型確定拠出年金である。また個人自身が直接加入できる確定拠出年金としてiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)がある。要するに、いずれも個人が毎月一定額を拠出し、それを年金の原資とする制度である。拠出した原資は将来の(自分自身の)年金支給に備え、個人自身が運用方法を選択する。国の年金制度であるから、税的メリットが与えられている。
この確定拠出年金の全体像は16年3月末から21年3月末までわかる。21年3月末現在の資産額は19.3兆円、5年前の1.79倍である。この資産のうち外国株式での運用は2.6兆円、5年前と比べ3.50倍になっている。アメリカの代表的な株価指数であるS&P500(円ベース)の1.90倍を大きく上回り、増えている。またポートフォリオに占める外国株式の割合は13.3%に達する。つまり、個人は年金という将来の備えのために海外株式を積極的に選択していることになる。
今後の株価動向によっては不確かなものの、以上からは個人が好む金融資産が明らかに変化しつつあると考えられる。今後とも追いかけていきたい統計である。
参考のため、上記で用いた個人金融資産と確定拠出年金のポートフォリオの図表をアップしておく。
2022/01/24