今年7月からアメリカ株の信用取引を始めると、ネット証券各社が公表している。7月というは、証券業界の信用取引に関する改定後の規則が施行される月である。それまでの間は準備のための期間ということか。
信用取引とは、投資資金を借りて株式を買うか、株式を借りてその株式を売る方法である。いずれも「他人から資金や株式を借り、それで株式を売買する」ことに変わりないから、いずれはそれらを返さないといけない。
この信用取引、頭の中でイメージすればわかるように、売買した株式の値動きに応じ、大儲けできるか、大損するかになる。「株式に手を出すなんて博打と一緒や」と非難されるのは、多くはこの信用取引のことを意味している。少し例示しておくのがいいかもしれない。
通常、日本株の信用取引は3割の資金があれば可能(保証金率30%)である。
1000円のA社株を(まだまだ安いと思い)買う場合、300円の自己資金と700円の借金を使う。このA社株が700円に下がってしまったとして、「やーめた」と決断すればどうなるのか。A社株を700円で売却し、700円の借金を返すのだから、手元に残るのは0円、つまり元手の300円が消えてしまう。
逆に1000円のA社株を(下がるだろうと思い)売る場合はどうなるのか。300円の自己資金を担保に1000円のA社株を借りて、それを売ることになる。売った代金1000円は証券会社が預かる。その後、このA社株が1300円に上がってしまったので、「やんぺや」と1300円で買い戻せばどうなるのか。自己資金300円と証券会社に預けてある1000円でA社株が買い戻され、その株式が元の持ち主に返却されるから、手元には0円しか残らない。
実際には売買手数料はもちろん、借金の金利や借りた株式の借り賃が生じるので損益計算はもう少し複雑になるものの、大筋は変わらない。さらに現実には、上記のように投資家の自己資金が実質ゼロになる以前に、証券会社が「追加の担保」を要求してくる。これを「追証」という。
通常、損失込みの実質的な証拠金の率が2割になると追証が発生する(保証金維持率20%)。つまり、信用取引で売買した時点での思惑と反対方向に株価が1割動けば、追証を証券会社に入れなければならない。資金がなくて入れられない場合、強制的に証券会社は信用取引で売買した株式の反対売買を行い(手仕舞いの買いもしくは売り)、信用取引を解消する。その結果、損失が確定する。
ということで信用取引をすれば、一夜長者になれるかもしれないが、逆に一夜乞食も大量に発生する。とくにアメリカ株がそうだろう。
この1月末から2月初にかけてアメリカ企業の決算発表があった。今回はサプライズがたくさんあり、決算発表直後、瞬間的にアマゾン14%上昇、アルファベット(グーグル)8%上昇、アップル7%上昇、メタ(フェイスブック)20%下落、ペイパル25%下落など、大荒れだった。世界的な有名どころでさえこの値動きなのだから、アメリカ株で信用取引をしたらどうなるのか。一夜長者、一夜乞食どころではなく、一秒長者、一秒乞食がたくさん発生する。
このためもあり、日本の証券業界の7月からの規則では、アメリカ株の信用取引の場合、安全性を考えて保証金率50%、保証金維持率30%と定められた。この場合、20%株価が動けば追証が発生する。それでもメタやペイパルを信用取引で買っていれば追証に対応しなければならない。
ようく考えて信用取引を活用すべきというか、近寄らないのがいいということだ。そもそも信用取引とは短期間で大儲けしようとの売買である。当然ながら、思惑が外れれば短期間で大損なのは自明なのだから。
2022/02/07