今日(3/22)、為替レートが1ドルが120円台に乗った。他の通貨(といっても僕が関心を持つ通貨)に対しても円は安くなっている。どこまで円安が進むのか。「どこまで」とは、今日や明日ではなく、数年後から10年後の水準である。
僕は長期的に円安だと考えてきた。これまでのブログを読むと、ある程度わかると思う。しかも単なる評論家ではなく、自身のポートフォリオも外貨に分散投資している。この「通貨の趣味」とも言うべきスタンスはともかく、一般論としても海外通貨を持つことが望ましい。この点は1年前に出版した『金融リテラシー入門 応用編』の第7章「老後に備えた資産運用」に書いておいた。20年くらい前から唱えている説である。当時、東大の某小林孝雄氏も「そうだ」と語った。
それはともかく、今回の円安の背景を確認するため、貿易統計(財務省)を久しぶりに分析してみた。というのも、貿易収支が赤字の国(つまり日常の物の取引で資金が流出している国)の通貨は安くなると考えているから。
貿易以外の面で海外の資金を引き付けられればいいとはいえ(アメリカのように基軸通貨であるとか、特許や観光資源を持っているなど)、貿易収支が赤字なら通貨の価値を高く保つためのハードルが上がる。海外への投資(企業の海外展開、海外株式や債券への投資)からの収益で貿易赤字を打ち消すのも一案ながら、そのためには最初に海外への投資、つまり海外に資金を流出させることが生じる。このため当初の段階は円安かもしれない。いずれにせよ、貿易収支が最重要である。
その貿易の状況だが、簡潔に言うのなら、日本の輸出構造の脆弱化が進んだ結果、貿易赤字に陥りやすくなっている。今回、資源高が一気に進んだため、この日本の弱さが表面化し、貿易赤字になった。貿易統計の「輸出総額-輸入総額」が赤字になったのは2011年からである。その後、21年までの11年間のうち、16、17、20年は黒字に戻ったが、残りは赤字である。そして12年目の今年は、この赤字が非常に大きくなりそうである。
これは、日本から輸出できる品目が少なくなっていることに起因する。かつての花形輸出品目である船、半導体、家電が消えてしまった。大口で残るのは乗用車だけである。それもトヨタだけに近い。統計にもそれが表れていて、かつて輸出の20%以上を占めていた「一般機械」「電気機器」「輸送用機器」はすべて輸出全体の20%を切っている。極論すれば乗用車以外はちまちました品目の輸出でしかない。
一方の輸入は、石油や液化天然ガスに分類される「鉱物性燃料」が20%から30%を占めている(原油などの価格動向によって比率が大きく変動する)。とはいえ、他にも大きくなっている品目がある。なかでも医薬品、半導体、通信機に注目しておきたい。先端的な医薬品として、今ではワクチンが挙げられる。半導体は「インテル入ってる」だし、サムスンなどの半導体メモリもそうである。通信機はアップルに代表されるスマホである。かつて日本が得意で輸出していた分野が、オセロゲーム的にひっくり返されている。これでは貿易での赤字が進むはずである。
以上から、円安は当然だと思う。円が安くなったところで、海外から見て日本に「欲しくなる製品」がなければどうしようもない。あるとすれば観光であり、インバウンドだろう。著名企業が居抜きで買われるかもしれない。
円はどこまで下げるのか。日本の投資家が「日本株ではなく海外株」だと思うようになっている。日本の債券は金利ゼロだから日本の投資家に見向きもされない。とすれば、円安が円安を呼ぶ可能性が出てきた。
とはいえ、海外通貨であればどこでもいいわけでない。直近ではロシアで懲りたはず。やはり先進国だろう。アメリカ、ユーロ、豪ドル、ニュージーランドドル、加ドル程度か。
いずれにせよ、ガソリンや食品の値上がりの一部分は円安による。海外旅行が再開された頃には旅行代金が高くなっているだろう。これらの値上がりをカバー(ヘッジ)するためにも、海外通貨への分散投資は欠かせない手段である。
2022/03/22