昨日は金融庁が中心となって定めるコード(企業や投資家の行動原則)に関連して、東証株価指数(TOPIX)を模倣する投資(いわゆるパッシブ運用)が矛盾を抱えていると書いた。これは金融庁が主催する会議での僕の発言である。その場で、次の2つも指摘した。
1つは、コードが推奨する上場企業の社外取締役について、3社も4社も兼務している者が目立つ。コードの端緒となった某H大学のI氏は、実はもっと多くの社外取締役を兼務していた。今はどうか知らないが(調べる気もないが)、「そんなんで、昔はともかく今、企業経営に対して正論を展開できるのかな」と思う。
他方、役人としてほぼ頂点を極めた某氏は、最近になって上場企業の社外取締役に就任し、その感想として「(本業に加え、社外取締役を務めるのは)1社でも大変、2社も3社もなんて不可能」ともらしていた。思うに、上場企業の社外取締役は2社程度が限度ではないか。社外取締役の責務が重くなっている現在、かつての限度は3社だったかもしれないが、今では2社が限度かなと思っている。この点に関連し、昨年の今日、「多重社外取締役に反対を」を書いた。
もう1つは配当である。これも同じ趣旨のことを過去に何回か書いた。要するに、投資家として配当を重視すべきではない。配当はあくまでも結果である。
企業として最初に方針を決めないといけないのは、利益の内から「どの程度の金額を内部留保すべきか」である。内部留保は企業自身の成長戦略、人材育成、環境政策に重要な原資である。つまり、企業として最重要なのは、将来に向かった投資戦略である。その戦略を決めた、そのための原資を確保して、残りを株主に対する配当として支払うことになる。
この点、多くのプロの投資家も企業も間違っている。「利益の中から配当として何割を払うのか」を決めればいいと思い込んでいる。だから日本企業の配当性向(配当額/当期純利益)が3割程度に収斂してしまい、没個性になる。
アメリカでは、膨大な利益をあげていても配当しない企業がある(グーグル、アマゾンなど)。株価さえ上がってくれれば、支払ってもらった配当への税金をきっちり取られるよりも、株主としてはよりハッピーである。
この結論に至るには、ちゃんとした経営をしてくれるとの前提が必要となるのだが。配当が最も重要と日本企業の多くが考えている現実は、ちゃんとした経営をしてくれていないことと同じである。とすれば、配当をしてくれることに対して、「まあいいか」と妥協せざるをえないのかもしれない。
下手な経営が、下手な成長戦略を生み、下手な投資家がそれで満足する。変な日本の株式市場である。
2022/06/01