株式投資のことをあるセミナーで話した。株式投資の基本は「これぞと感じた企業の株式を長期間保有すること」に尽きる。世間が考えているように「安く買って高く売れば大儲け」なんて、毎回可能なわけがない。
業績が伸びる企業(売上も利益も長期的に増えていく企業)の株式を長期間保有すれば、業績の伸びとともに株価が上昇する。配当も増える。だから株式保有によって資産が自動的に形成されていく。これが株式投資の基本である。かつての松下電器やソニー、これまでのトヨタが代表である(今後を保証するものではなく、またソニーは復活しつつある)。
でも、長期に保有するなんてまどろっこしい。「安く買って高く売れば資産が形成されるし、それを繰り返せばたちまち億万長者やん」と思えてくる。実際、子供の頃の僕はそう思い、「遊んで暮らせるな」と思っていた。
下図に示すように、「株価が赤い位置にあれば買い、青い位置にあれば売る」ことになる。株価がこのようなサイクルを繰り返せば(実際、株価の変動幅はともかく、過去も今もサイクルが続いている)、「安く買い高く売る」チャンスは無限にある。つまり億万長者になれるチャンスはゴロゴロしている。
残念ながら、そう考えるのは僕だけでない。ほぼ全員がそう考えると思って間違いない。そして誰もが億万長者を夢見る。ところが「安く買い高く売る」ことの繰り返しで億万長者になったという実例をほとんど聞かない。
何故なのか。「安く買い高く売る」ことが至難の技だからにすぎない。
もしも「安く買い高く売る」ことが簡単なら、図の黄色い矢印が示すように、株価が安値にあると「買い」によって株価は持ち上がる。高値にあると「売り」によって下げ圧力が強くなる。
究極のところ、株価のサイクルが消えるはずであるが、現実にはサイクルは消えない。それどころか、暴騰と暴落がさまざまな局面で観察される。つまり、株価のサイクルは今でも顕在である。裏返せば、「安く買い高く売る」ことが至難の技だということにほかならない。
もちろん相場の天才がいることを否定しない。しかし普通の投資家の売買では、「安く買い高く売る」こともあれば、「高く買って安く売る」こともある。株価水準全体が切り上がっていかないかぎり(図のサイクルが徐々に右上がりにならないかぎり)、投資家全体としての株式保有金額が増えていないわけだから、売買にともなう「誰かの利益」は「誰かの損失」にすぎない。「誰かの利益」と「誰かの損失」を足し合わせればゼロということである。これをゼロサム(zero sum)という。
もっといえば株式の売買は、証券会社に手数料を支払って実行してもらわないといけない。また相場の天才に、もしくはAIなどを使ったプロの投資家に利益の一部をもっていかれる。とすれば、一般投資家全体の利益と損失の合計はマイナス、つまりminus sumである。
ということで、「安く買い高く売る」なんて無駄なところに力や財産を注ぐのではなく、「業績が伸びる企業の株式を長期間保有する」という王道の上で寝そべっているのが正しい。この王道はベルトコンベアのように勝手に動いて利益をもたらしてくれる。いずれ「遊んで暮らせる」地点に連れて行ってくれるかもしれない。
2022/06/22