PBRが1倍を割れるのは、結論から述べると、投資家が企業に及第点を出していないからである。
ではPBRが1倍割れの理由は何なのか。模式的に書いておく。
株式投資家が100の資本を企業に投下する。この100は株主資本でもある。この資本を使って企業は事業を営む。ここで投資家は100の資本に対して10%の利益(すなわち利益額として10)を企業に稼いでもらいたいと考えたとする。
しかし実際は8%の利益しか(つまり8の利益しか)企業が稼がなかったなら、何が起きるのか。簡単である。投資家が望むのは投下した資本に対して10%の利益だから、投下した資本の評価額を下げればいい。企業に「あかんやん、もっと稼げや」とどやしつける方法は、とりあえず採用しない。
投資した資本に対して8の利益を稼いでいるわけだから、投資した資本を80だと評価すれば(言い換えると、投下資本の時価、すなわち株価を80だと評価すれば)、10%の利益を稼いでいる計算になる。この時のPBR(株価/株主資本)は80/100だから0.8倍になる。
この状況が変わり、15%の利益を(つまり15の利益を)企業が稼ぐようになれば、投資した資本が150の価値になった(株価が150になった)と評価できる。PBRは150/100だから1.5倍である。
追加で説明すると、投下した当初の資本は会計上の株主資本である。この金額は(余程大きく状況が変わらないかぎり)不変である。このため、当初の投下資本の金額(株主資本の金額、上記の場合は100)と、企業の稼ぎに基づく投下資本の評価金額(時価)との間に差が生じる。この差を表すのがPBRだといえる。
さらに言えば、投資家が企業に稼いでもらいたいと考える利益率(上記の例では10%)を資本コストという。PBRが1倍割れになるのは、企業が営む事業の利益率が資本コストを下回っているからである。経営が不良だとも言える。上記の例では事業利益率が8%の場合である。
逆にPBRが1倍を上回るのは事業利益率が資本コストを上回っているからである。良好な経営である。上記の例では事業利益率が15%の場合である。
2022/07/22