日本の賃金が上がらない。今年の夏、企業はボーナスを少しはずんだようだが、ベースは山のように動かない。この理由について7/30日経新聞の大機小機に「一直さん」は、中国が安い労働力で大量の物を供給したことに求めている。間違いでもないが正しくはない。
何故なら、日本だけが賃上げから取り残されている。日本と同じ先進国に分類されている欧米では賃金が上がっているのだから日本が特殊であり、この特殊性を「中国のせい」だけで説明するのは矛盾である。
中国の安い労働力によって安い物が大量に供給され、いまやネットで品物を探すと中国製を避けるのは難しい。消費者としての日本人はその恩恵を受けている。僕自身、「登山製品の安いこと、これまでの高さは異常やな」と思っている。この安さの中で賃金が上がれば誰しも大満足だろう。
日本だけ賃金が上がらないのは、その中国と「真っ向勝負」を続ける企業が多すぎることにある。製品やサービスの転換ができていない。アメリカを見ればいい。トップ企業であるマイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグルなどは中国と真っ向勝負をしていない。コロナのワクチンにしてもそうである。中国との競争を上手にかわし、儲かる事業、独自の世界を生み出し、育ててきたのである。
日本企業には「中国をかわす」発想が足りない。何が原因なのかはっきりしないのだが、一因は、企業が新しいことへのチャレンジを避けてきたことにあるだろう。大企業の従業員が年功序列賃金と終身雇用を奉り、新しい仕事にチャレンジしようとしないことも要因として指摘できる。
日本企業に戻ると、事業を変えず、安い労働力を求めて韓国に進出し、中国に移り、さらに東南アジアや東アジアへと生産拠点を鞍替えしてきた。製品の進歩は遅々とし、価格で中国との勝負を続けたから、日本国内の従業員の賃金も上がらない。
7月の日経新聞「私の履歴書」、丸山茂雄氏を読んで思ったことがある。日本の音楽が著作権や印税という既得権益、すなわち過去にこだわっているうちに、かつて日本を真似て歌謡曲的なものを出していた韓国が、いつかKポップを生み出し、海外市場を開拓してしまったとか。衰退的な日本の音楽と好対照である。これと同じことが日本経済全体において生じている。
従業員もまた賃上げ要求を控えている。この点は7/28日経新聞の経済教室に星岳雄氏が指摘している。労働組合でさえ、最近は常識の範囲内、企業とのなれ合い的賃上げ要求に徹している。
多分クビになるのが怖いのだろう。年功序列賃金と終身雇用という既得権益にしがみついている。さらにその背景として、「手に職がない従業員」、つまり今勤めている企業文化にどっぷり染め上げられた従業員が大多数だと指摘できる。
寄らば大樹の陰とばかりに大学卒業時には就職活動を真剣にするが、無事入社した暁には上司の命令に唯唯諾諾である。これでは「手に職がない」状態になるのは当たり前だろう。リカレント教育が叫ばれている。従業員としてはリカレント教育を企業に任せるのではなく、日頃から自分自身で心がけないと、いずれ路頭に迷うリスクが高まる。
結論である。日本の賃金が上がらない理由を他人(中国)のせいにしてはいけない。今となっては身から出た錆の部分が大きい。政府もこの点をしっかりと認識しないといけない。その上で、企業と従業員には栄枯盛衰を歴史から学ばせ、新陳代謝を活発化させるべきだ。
2022/08/01