今日の日経新聞に、「金融庁が仕組み債について、メガバンクや地域銀行、証券会社などの販売実態を総点検する」とあった。個人投資家からの苦情が相次いでいるらしい。当然だろうと思うし、いまだに仕組債を売りまくっている金融機関って何だろうと思う。
例示しておきたい。先日、某証券会社からIHI(昔の石川島播磨重工)の社債の案内が届いた。利率が年9.4%だそうだ。「昔の著名企業の社債が9%で回る」と思ってしまうと、老人なら飛びつくかもしれない。
でも注意が必要なのは、1つは、この社債がIHIのものではなく、BNPパリバというフランスの金融機関のものだという点である。もう1つは、条件付きだという事実である。付いている条件とは、ノックイン条項と早期償還条項である。そして、満期まで最長1年だということも念頭に置く必要がある。
このIHI社債の(正確にはIHI株価連動型パリバ社債の)ノックイン条項とは、IHIの株価が社債発行時の株価の70%以下になると、償還時の社債の償還率がIHIの株価に連動してしまうことである。償還時に幸いにもIHIの株価が社債発行時の価格に戻ると、社債元本が100%償還されるが、株価が戻らない場合には元本が一部しか償還されない。例えばIHI の株価が社債発行時の70%まで下がり、そのまま推移すれば、元本は70%しか返済されない。つまり投資家として大損である。
一方、IHI社債の早期償還条項とは、IHIの株価が社債発行時の株価の105%以上になると満期を待たずに元本が100%償還されることである。
この2つの条件に対して、「30%以上株価が下落するなんて考えられないのでは」と思うかもしれない。しかし1年間で30%の株価変動は普通に近い。
もう少し考えると、パリバは「IHIの株価が30%下落するという条項(この条項をオプション条項という)」だけを切り離し、プロの投資家に高く売るのだろう。高く売れるので、9%という利率を支払ってもパリバは大儲けできる。
言い換えればプロの中には、多少値段が高くてもこのオプション条項を買いたいと思う投資家がいる。つまりIHIの株価が30%以上下がる可能性が高いと考えている。
またどこかで(例えば社債発行の半年後に)30%株価が下落すれば、その後の満期までの間に(この例では残り半年間の間に)発行時の株価に戻ることはあまり考えられない。
逆に、IHIの株価がたった5%上がっただけで社債が償還される。つまり、この社債を買った投資家の9%の利回りの夢が終わり、相手のパリバとしては高い金利を払わなくてすむ。付け加えれば、この社債の条件は、投資家からすると株価の上限がたったの5%であり、株価の下落に下限がない(理論的には株価が0円にもなりうる)という不均等なものとなっている。
以上のように考えると、この社債に投資すべきではない。うまい話(この場はの9%という利率)には裏がある。うまい話に乗れば大損しかねない。もちろん、1年間のIHIの株価が5%未満しか上がらず、かつ30%に満たない下落にとどまれば、9%の利率が得られるのだが、その確率はきわめて小さいだろう。
ちなみに僕は仕組債に投資したことがない。パリバのような金融機関を儲けさせようとは夢にも思わないからである。パリバの大儲けは僕の大損でもあるわけだし。
2022/08/25