南アとは南アフリカではなく、南アルプスである。読売のネットニュースを見ていると、その南アルプスの登山の拠点、広河原を高級リゾート化する計画があるとか。陳腐なことをしてほしくないものだ。
広河原は、南アルプスの最高峰、北岳への登山口である。その北岳から広河原へ下ったことがある。また鳳凰三山の北西側の尾根を歩いた時にも広河原へと下りた。
そもそも広河原を流れる川は富士川の支流、早川であり、上流部では野呂川と名前を変える。その川を最初に訪れたのは西山温泉である。1960年代の後半、高校時代だった。下流部から父親の車で遡った。新倉の発電施設を過ぎると山深い渓谷になった。
二度目の早川は西山温泉の少し上流部、奈良田である。1974年、北岳を含む白根三山を歩くためだった。下った先は、上で述べたように広河原だった。
広河原からは林道で甲府に抜けられる。途中、鳳凰三山から南に続く尾根を夜叉神峠で越える。この峠の名を聞いたのは故光代叔母さんからだった。1960年代前半、中学生の頃だったか、叔母さんに写真を見せてもらったと思う。秘境だという説明とともに、峠の名前が鮮明に残った。1982年、その峠にも鳳凰三山から下りた。叔母さんも多分鳳凰三山からだろう。
さて広河原だが、2回目に鳳凰三山の尾根から下りたのは1986年だった。明るい河原というか広場の印象が残っている。グーグルマップの航空写真版で見ると、少し印象が蘇る。広場に客引きのタクシーがいて、5人を募って甲府まで運んでくれた。
ネットのニュースでは、その広河原が上高地に似ているのに知名度が低い、だから名前を売って高級リゾート化するのだとか。穂高の登山口の上高地には梓川が流れ、北岳の登山口の広河原には野呂川が流れと、その位置関係と地名の文字数だけは似ている。でも、それだけではないのか。
上高地を真似る必要なんてどこにもない。南アルプスには北アルプスにない良さ、奥深さがある。それを活かし、いろんな自然の体験ができるように工夫すればいい。
奈良田と夜叉神峠にゲートを設け、そこから先は専用のバスしか入れないようにするのはどうか。その代わりにレンジャーや自然案内人を置き、入山者の監視とサーズをする。ここでも、そこでも、あそこでも見られるような現代風の建物と景色では、せっかくの南アルプスの宝物をぶち壊すだけで終わる。ましてや「高級リゾート化」なんて「何のこっちゃ」である。
多様性が求められている時代である。「女性や」「外人や」と騒ぐだけでは一様である。自然とのふれあいにも多様性を求めたいものだ。
2022/08/26