川北英隆のブログ

地方公共交通は将来の宝物

JRの経営がコロナ以降苦しくなっている。在宅勤務が増え、都市部の利用者数がコロナ以前にまで戻らないと想定される。このため、地方の赤字路線の存廃がにわかに議論され始めた。
そもそも論からすると、政府として以前から議論すべき問題だった。新幹線を含めた都市部の利用者が地方路線の赤字を陰で(公の議論がないまま)カバーするという歪んだ構造が歴然とあったのに、その構造は政治家に好都合だった。だから政府は黙認してきたのだが、ついにそのツケが突きつけられた。
思うに、地方路線は残すべきである。日本人が人間らしい生活をするためには、地方に経済活動を分散させないといけない。これを近い将来の目標とすべきである。
たとえば東京圏の悲惨さである。「うさぎ小屋」と揶揄された狭い(それでいてべらぼうに高い)家に住み、家畜以上に惨めな状態で電車に詰め込まれ、片道1時間も2時間も通勤するなんて本当に馬鹿げている(僕もその家畜の一匹だったので、通勤はスポーツだと考えることにしていた)。
高度成長期のように必死に生きなければならないのならともかくも、現在はオンラインで相当程度仕事ができる。物の生産でなく情報の生産にもっと力を入れれば、その方が高い付加価値を生み出せるし、都市部に集中する必然性がもっと薄れる。
もう1つは地方の豊かな自然や社会を楽しんでこそ、斬新な発想が生まれる。子供の教育にも大きなプラスをもたらす。親が在宅で仕事をすれば、子供の成長や安全にもプラスである。
このように考えると、地方の公共交通機関は将来、大いに活躍するのではないか。そうだとすれば、政府は地方の公共交通機関を何が何でも維持させるよう、積極的に支えるべきである。
ばらまき的な補助金(5万円だったか、先日東京を歩いていると、サラリーマンの一団が横を歩いていて、ヒモ的な生活をしている知り合いがもらうそうだと笑っていた)、ばらまき的なエネルギー補助などのための財源があるのなら、その一部を地方交通対策に投じることの方が望ましい。もっと言えば、大都市に本社機能を保持する企業から「都市部過密税」を徴収すればいい。
公共交通機関も、「赤字だから減便する」という従来方式の(誰でも最初に考える)経営から脱却すべきである。交通機関が不便になれば、ますます誰も使わなくなる。そうではなく、使ってもらう工夫をすべきである。そのためには地方政府と一体になり、どうすれば使ってもらえるのかを考えるべきである。
地元に(たとえば学校や病院に)使ってもらう、観光客に(たとえばブランド食材を作って)使ってもらう、企業を誘致して(極論すれば都市過密税率を高くして企業を東京圏から追い払い)使ってもらうなど、いろんな工夫の余地がある。その工夫を政府が積極的に支えるべきである。
地方を歩くと都市部にはないすばらしい風景や歴史が広がっている。国民もまた、政府や地方自治体まかせではなく、地方の良さを積極的に味わいに行くべきである。それも車ではなく、列車やバスを使って。

2022/10/05


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