川北英隆のブログ

円の激安に思う

日本時間の10/21の夜、円ドルレートが152円近くまで下落した。日本政府はたまらず外国為替市場で大規模な「ドル売り、円買い」介入を行ったようだ。週明けの円ドルレートがどうなるのかは不明ながら、どうも不穏な予感がする。
円安の原因は、長期的には日本経済の劣化である。もう少し言えば、戦後の日本経済を支えてきた大企業が、世界的な基準からすれば、この30年近くの間に凋落してしまった。
短期的には、日銀の金融政策が超緩和のまま一歩も動かない(動けない)ことにある。先進国の中で日本だけが取り残されている。金利水準は依然としてゼロ近辺にあり、孤立感が深まった。
日銀は日本経済が非常に弱いことを知り、それに配慮しているのだろう。「ゼロ金利でいくらでも貸すで、その資金で投資をして経済を成長路線に持っていってんか、儲けて賃金を上げてんか」と叫び続けているのだが、それに応える大企業がほとんどいない。墓場で叫んでいるようなものである。だからゾンビ企業だけが元気にうろちょろしている。
それはともかくとして、「ドル売り、円買い」介入の意味とは何なのか。
要するに過去に海外で稼ぎ、こつこつと貯めてきた日本の財産を売り払うことである。元々は名家ながら、いつしか貧乏になってしまった奥さんが、タンスにしまってあった晴れ着を質に入れるようなものである。
いつか金持ちに戻り、質が流れる前に晴れ着を取り戻せれば、言い換えれば、今回の件において「円売り、ドル買い」ができるようになればいいのだが。日本の大企業が元気になることを願うばかりである。
今回、どの程度の円安になったのか、先週末の各国の為替水準を調べてみた。すると日本円が突出して安くなっている。
コロナの前、2019年12月末との比較で、対ドルの価値(1ドルを買うのに何円必要か)を調べたところ、この金曜日現在で72.4%だった。つまり27.6%の下落である。主要通貨で円よりも下落しているのは、パキスタン・ルピー(29.9%下落)、アルゼンチン・ペソ(61.0%下落)、トルコ・リラ(68.0%下落)だった。これら、日本よりも下落率の大きい国は、いずれも国内経済や政治に大問題を抱えている。
ちなみに、タイ・バーツは22.1%の下落、韓国ウォンは19.3%の下落、中国・元は3.5%の下落である。
この通貨価値の下落の順序は2021年12月末と比べても大きくは変わらない。下落率を示しておくと、日本円23.3%、パキスタン・ルピー20.3%、アルゼンチン・ペソ33.1%、トルコ・リラ28.4%である。また、タイ・バーツ13.0%、韓国ウォン16.9%、中国・元11.9%となっている。
今年に入って日本円の下落が目立つし、中国元も比較的大きく下げている。ウクライナのほか、いろんな問題をかかえたユーロやポンドも下落しているのだが、そうはいっても10%台であり、日本円よりは小さい。
弱い日本経済が徹底的に狙われているとしか表現できない。ついでに書けば、日銀は円ドルの片側で、必死で国債を買い支えている(国債の金利が上がらないようにしている)のだが、それに対しても海外からの売り浴びせの波が止まらないようだ。固定相場制の時代、円に対して1008円もしたポンドの凋落が思い浮かぶ。
簡潔に言えば、円にも国債にも「日本売り」の大きな波が押し寄せている。まだ津波にはなっていないものの、きわめて不穏である。

2022/10/23


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