ある所で議論していたら、「賃上げを来春と言わず、今からしたらどうか」との意見があった。僕も前からそう思っていた。春闘ならぬ秋闘である。政府も秋闘を叫べばないと。叫ぶだけならタダ、電気代の補助金政策と異なり予算手当ては不要である。
日本の最大の欠点は過去の慣行や常識にとらわれ過ぎることだ。常識も過去からの学びの1つだから、「過去にとらわれ過ぎる日本人」と表現していいだろう。過去も重要だが、明日のほうがより重要である。明日を強く意識した発想がイノベーションを導き、革新的な企業を生み出す。
今の多くの経営者が考えることは「在任中は平穏無事に」である。秋闘なんて打ち出した分には、その企業の今期の業績見通しが大きく狂い、株価を下げるかもしれない。そう心配するのだろう。
でも結果は反対だと考えていい。「従業員の生活のことを思う素晴らしい企業、ESGのS(社会性)に叶う企業」との評価が高まり、逆に株価が上がるのではないか。従業員も「いい企業で仕事をしている」と考え、勤労意欲が高まるに違いない。
今の多くの日本企業は、環境(E)を中心にESGに熱心な企業だとの世間の評価を望んでいる。しかし今回の賃上げ劇を見ていると「振りだけやん」としか思えない。政府に言われて経済団体も来春の賃上げを要請しているが、政府に従順な犬を演じているだけではないか。猫のように勝手気ままに振る舞ったらどうかと思ってしまう。
労働組合も大人し過ぎる。それこそ「今すぐ賃金を上げろや」と経営者に要求すべきである。政府をはじめ、世の中は賃上げを歓迎しているのだから、その波に乗るべきである。
賃上げは春に行うものとの決まりはどこにもない。理屈があるとすれば、「企業側が年度計画を立てる都合上、賃上げは春がいい」のかもしれない。とすれば、12月決算の企業では、今から賃上げ交渉をしてもいいのではないか。3月決算の企業の場合、本格的な賃上げは新年度からとして、当面は臨時の「物価高手当」を支給するという方法もある。
こう考えると、日本は企業経営者も労働組合や団体も、いずれも常識派であり、発想の転換からほど遠い。もう少し自由に考え、行動すべきである。
先に経済団体で譬えたように、犬か猫かで言えば、猫を見習っていいではないか。その猫も決して飼い主に歯向かうわけでない。自己主張が犬より少し強いだけである。世間に襲いかかり、噛みつく猛獣ではない。
2022/11/08