川北英隆のブログ

全利益を配当に回せ

日本の上場企業は横並び主義である。係長社長が多いせいかもしれない。その最たるものは配当性向(配当総額/当期純利益)を30%にすれば十分との風潮である。その心は、他の企業がそうしているからだろう。ほとんどの場合、経営者としての判断が空っぽである。
何回か書いたように、配当がゼロでも問題ないケースもありえる。典型は、成長するための合理的な投資案件が多いケースである。
その逆に100%配当すべきケースもある。さらに言えば、村上ファンドではないが、今まで溜め込んだ現預金を配当に回し、配当性向100%超えも当然にありえる。
配当性向を100%にする、言い換えれば「当期に稼いだ税引後の利益(当期純利益)」をすべて配当にすべき典型例は、実のところPBR1倍割れ企業にみられる。逆にPBR1倍割れ企業の配当性向が100%に達しなければ、その多くは経営者の犯罪に近い。「犯罪だ」と投資家に罵られないためには、アリバイというか理由付けが必要となる。
長年PBR1倍割れの企業が横の企業をきょろきょろ見つつ、当期純利益のうち30%を配当に回し、残り70%を内部留保したとしよう。143円/株の利益を上げた企業が43円を配当に、100円を内部留保に回した事例に相当する。
この場合の株主の最大の関心事項は、100円の内部留保を何に使うのかである。というのも、内部留保された100円は、そもそも配当に回してもらってもよかったわけなのに、経営者が「使うから」とお任せに近い形で持っていったからである。つまり、100円は株主にとっての企業に対する新たな資本提供にみなされる。
株主が企業の事業に期待する収益率が10%だとしよう。PBR1倍割れだから、実際の事業利益率は10%に達していない。例えば8%としておく。この場合のPBRは0.8倍である。
さて、100円が現預金もしくはそれに近い状態でほっておかれた場合、その100円が生み出す利益率はゼロである。だから株主から見ると0円の価値しかない。本当のところ、現預金はいつでも、どこでも、何にでも使えるから、0円超の価値はあるのだが。
100円を現時点での事業に近い形で使われた場合、株主として期待できる利益率は8%である。このため、生み出される利益は8円となり、当初の100円はたちまち80円の値打ちに落ちる。株主として20円の損失を被る。
100円が100円以上の値打ちを持つのは、100円の投資が10%以上の利益を生み出すと期待できる場合のみである。本当の経営者なら、10%以上の収益を生み出す計画があることを株主に示さなければならない。当然、配当案を決める取締役会では、100円という内部留保が必要な経済的な背景を示し、説明しなければならない。
はたして今の経営者は内部留保が必要な理由を説明しているのだろうか。利益率の高い事業を見つけたので新規投資するとか、今の低利益率の状態を改革するために新規投資が必要だとかの説明である。
説明していれば係長社長ではないし、犯罪者呼ばわりされない。とはいえ現実は、PBR1倍割れを永続的に続ける企業が多く、かつ保守的というか保身的に多くの内部留保を積んでいる。
有識者の知人が「PBR1倍割れは犯罪だ」と言ったのも「むべなるかな」である。犯罪にならないためには利益のすべてを配当すべきである。

2022/12/10


トップへ戻る