12/20、日銀は海外勢による国債売り圧力に屈し、実質的に長期金利を利上げした。決まり手「押し出し」により、海外勢の勝ち、日銀の負けである。これに伴い、短期金利のマイナスを含め、異次元金融緩和による様々な矛盾が噴出している。
黒田総裁が就任してからほぼ10年が経過する。その間、ずっと異次元金融緩和が続けられてきた。「異次元」とは聞こえがいいが、要するに金融市場における非常事態宣言である。その非常事態を10年間も続けることは異常であり、狂乱である。
非常事態宣言は一時的なものであるべきなのは当然だろう。その間に抜本的な措置、つまり経済に対する手術を政府が一丸としてなすべきだった。実態はというと、異次元金融緩和の一本足打法であり、誰も何も異次元の経済対策を行わなかった。その結果、10年近く経過して、黒田総裁の敗北がもたらされたのである。
黒田総裁の敗北は、それだけであれば大きな問題ではない。深刻なのは、10年近くの間に日本経済の体質がますますひ弱になったことである。
まず、金利が少し上昇するだけで、1000兆円を越した国債の利払いが増えてしまう。
毎年新規に100兆円の国債を発行すれば(実際に発行されてきた)、その新規国債に対する利払いは今までゼロ近くだったのに、金利が1%になれば利払いは年間1兆円、その半分でも5000億円に達する。新規の利払いだけで政府予算を圧迫する。裏から見れば、「利払いはゼロ」を前提に大盤振る舞いしてきた政府には、緊縮が要請される。「緊縮が今の政府に本当にできるのか、そんな技量を忘れてしまったのではないか」と問われている。
日銀自身も500兆円の国債を保有し、その国債の評価額の低下に直面している。というのも、金利が上がればゼロ金利で発行された国債価格が下落するためである。理由は簡単で、投資家にとっては、金利の低い国債を買うよりも新たに発行される高い金利の国債を買うほうが得だから。そこで金利の低い国債を買ってもらうには、価格を引き下げないといけない。
この国債価格の下落によって、日銀が保有する国債に評価損が生じ、その金額が兆円単位に達している。地方銀行などの民間銀行の場合、保有している債券に評価損が生じれば金融庁が「損をどうするんや、今後の対応を説明せよ」となるのだが、日本銀行の場合、とりあえずのところお咎めがない。でも、実態は普通の銀行と同じである。むしろ銀行の銀行であるだけに問題が大きい。でも「誰も何も言わない、言えない」。そういう状態が健全なのかどうかが問われようとしている。
民間にも当然に影響が生じる。住宅ローンであり、企業の借金である。前者への影響はもう少し先のこととしておくが、後者はゾンビ企業(すなわち儲けの乏しい企業)にとってみれば深刻である。利払いが増え、企業収益が圧迫され、倒産に追い込まれるかもしれない。もっとも、「あんた、黒田総裁の10年間に何もしてへんだんちゃうか」と突き放されれば、それまでなのだが。
10年間という非常に長い猶予期間があったにもかかわらず、日本経済は変身できなかった。変身できない日本経済に、そして政府や企業に猶予を与え続けたのが、何も声を発しなかったのが、この10年間の日銀の最大の罪だと思えて仕方ない。
むしろ、通常の厳しい経済競争の現実に、政府やゾンビ企業をさらすことで、日本経済の再生を促すことが効果的だろう。当然、日本に住む個人も防衛手段を講じなければならない。日本国内から一歩外に出ると、嵐の荒れ狂うような世界が待ち受けているわけだから。
2022/12/28