春闘を前に、賃上げの記事が目立つようになった。この賃金に関して、2つの留意点を書いておきたい。
1つは、政府が「賃上げを」と語気を高めたところで、賃上げすれば企業収益に対してマイナスの影響が出る点に注意が必要である。「ない袖は振れない」企業が出てくるのではないか。逆に、賃上げの財源が豊富な企業もある。
世界的な景気が後退局面に差しかかっている。欧州やアメリカの政策金利引き上げの効果でもある。その影響が遠からず日本にも及ぶ。とすれば、本音では賃上げを抑制したいと思う企業が少なからずあるはず。経団連のような仲良しクラブが、従来同様、この程度の賃上げをと音頭をとったところで、企業の対応がバラバラになりかねない。
もう1つは、結局は上と同じことなのだが、企業にとって優秀な人材を集めるチャンスが到来している点である。人口が減少する日本において、「できる人材」は希少である。
しかも、優秀な学生は日本企業を嫌っている。賃金が安いからである。また上を見て仕事をしなければならないのも鬱陶しい。ということで、「できる人材」の希少性はますます高まっている。
とはいえ、企業が伸びるには「できる人材」の確保は必須である。当然、賃金を上げて他社から引き抜く必要が生じる。年功序列のような日本的な雇用環境を改善する必要もあるだろう。この対応は、仲良しクラブでぬくぬく感を味わってきた企業との摩擦を呼ぶ。しかし、その摩擦を恐れていては海外企業に圧倒される。
ついでに書くと、高齢者を雇用して人口減少の影響を和らげよう、税金や年金の制約(壁)を緩めて主婦の雇用を増やそうという政策は、ダメとは言わないものの、「できる人材」を増やす効果が小さいことにも注意したい。
人口減少社会はボディーブローのように効く。その影響は雇用慣行や教育に大きな影響を与えつつある。当然、過去の雇用慣行に影響を与え、過去の高等教育で育った多くの大企業の幹部(大学での勉強は重要ではなく、友人作りやサークル活動の方が重要と思っている幹部)の思考の外に教育を運んでいく。企業の今の仲良しクラブは、その役割の大半を失うのではなかろうか。
2023/02/10