日本銀行の総裁、副総裁の交代人事が国会で承認された。黒田総裁の10年間が終わる。バズーカと称されるサプライズで始まった10年前から日本がどれだけ変わったのか。そこを反省しつつ、今後の日本銀行は政策を選択すべきである。
4月以降の総裁である植田氏を含めた新旧の3人の総裁とは、濃淡が異なるものの、直接的な面識がある。その印象を書いておきたい。
白川氏はきわめて実直である。日本銀行の生え抜きでもあり、その組織の役割の遂行に全力を注いできたとの印象を受ける。だから現実の経済金融市場を分析しつつ、極めて理論的に経済を動かすことを目指してきたのではなかろうか。
任期満了直前、2012年末から13年年初にかけて、政治的な圧力が高まり、白川氏は苦悩したと思う。とはいえ、当時の政府と交わしたアコード(共同声明)には、白川氏らしい知恵がこめられていた。
黒田氏は政治家だったと思う。それも有能な政治家である。その証拠に、バズーカと称された金融政策は大きな成果を発揮した。しかし後続が続かなかった。これは、直接的には黒田氏の責任ではない。日銀が切り開いた道筋に、企業を含めた日本の大勢が進もうとしなかっただけのことだろう。
もっとも、誰もがシュリンクしてしまい、新たな道筋を無視するという日本の一般的な行動を読めなかった、読もうとしなかったという意味で、日銀にも責任の一端がある。日銀としては、自らが切り開いた道筋に進むよう、政府をたきつけつつ企業の行動を促さなかったことにも責任がある。そう追求されても仕方ない。その責任の片棒は、能天気過ぎた政府にもあるのだが。
黒田氏を継ぐ植田氏はどうなのか。黒田氏ほどの政治家でないのは確かである。日銀の役割に対する責任感の点で、どの程度の評価ができるのかはわからないものの、経済学者としての矜持はあるだろう。何回か直接会った時の印象からも、このように考えられる。
4月以降、政府からの直接的、間接的な圧力は今まで以上に高まると思える。経済学者としての矜持と政府からの有言、無言の声との力関係が大きな問題となる。この点、2人の副総裁がどの程度カバーするのかは大きい。とはいえ最終的には、植田氏の判断もしくは決断に依存せざるをえない。
まとめれば、これまでの面識だけでは植田氏の行動を正確には予測できない。とはいえ黒田氏のように、いきなり大胆な行動をとることはないだろう。言い換えれば、当面の日銀の金融政策には大きな変化はないと思える。
他方、「やるべきときには大胆に行動する」可能性は否定できない。知る限りにおいて、植田氏個人には経済的な問題はない。言い換えれば失職しても経済的に失うものは実質的に皆無だろう。この点で、いつかサプライズがあるかもしれない。そう期待したいものだ。
2023/03/11