アメリカを震源とする銀行株売りが広がっている。アメリカのシリコンバレー銀行の経営破綻が直接的な原因である。ベンチャー企業を中心に大口預金者が多く、取り付けが(預金引き出し)が急速に広がったからである。背景にはアメリカの利上げがある。
昨年年初までの超の付く金融緩和によって銀行には預金が集まっていた。資金の借り手を十分に見つけられない銀行は集まった預金を国債などの債券投資に振り向けていた。そこに金融政策当局が過去にないスピードで金利を引き上げたものだから、債券価格が急激に下がり、銀行資産の健全性が揺らいだのである。
会計的に「含み損を損失に計上しなくてもよい」との方法(満期まで保有する目的の債券だと会計的に宣言する方法)をシリコンバレー銀行は多用していたらしいが、損失は損失である。この債券の損失を問題視され、預金の引き出しが生じた。資金繰りに困った銀行が満期保有目的以外の債券の全売却と、その売却によって生じる損失をカバーするための増資を公表したのだが、これがかえって火に油を注ぐ結果となり、一気に経営破綻に陥った。
以上をアメリカの特殊性と見るのかどうか。日本の銀行も程度の差こそあれ、同様の問題を抱えている。つまり、資金の借り手が少ないのに預金が集まるため、その預金を国債などの債券に投資せざるをえない点は同じである。一方で、日本の超が2つや3つ付きそうな金融緩和は終わりそうにないのだが、日本の国債の金利がこれ以上下がりそうにないのも確かである。
日本の銀行とすれば、国債に投資しようにもシリコンバレー銀行という最重視すべき前例ができてしまった。とはいえ国債に投資しないことには、有り余る(馬に食わせるほどある、しかし馬も食わない)預金をどうしようもない。日銀に返せばマイナス金利(お金を預けたのに金利を払わされる)という罰を与えられる。「前門の虎、後門の狼」の状態に日本の銀行は追い込まれつつある。
先週まで日本の銀行株が上昇していた。「株価純資産倍率(PBR)1倍割れを何とかしろや」と東証が吠えた?からだとされる。しかしその咆哮だけで銀行の経営が改善するのか。鶴やライオンの一声で経営が変わるなんて、現実はそんな生易しいものではない。たとえば、いちばん簡単な増配にしても、銀行の場合は自己資本比率規制が重くのしかかり、利益から配当に振り向けられる金額に限度がある。
そんな銀行株を、しかも銀行を選ばずに買うなんて、「アン信じらブル」な。
先週末、メールをしない知人から、「某銀行株を借金して買いたいのだが」との葉書が届いた。「こりゃ緊急や」と思い、奥さんのメルアドに「あかんで」と返事しておいた。
2023/03/14