少し趣味的な議論をする。何か。株価指数に関して、そっくり真似て投資するのがインデックス運用もしくはパッシブ運用と呼ばれ、それから外れて「素晴らしい企業を見つけて投資しよう」というのがアクティブ運用とされる。でも、そんな単純な分類なのか。
このパッシブ運用とアクティブ運用の区別は投資理論に由来する。具体的には、ノーベル経済学賞を受けたW.シャープのCAPM(Capital Asset Pricing Model)が出発点にある。その理論では、マーケット(Market)を真似るのが最適な投資だとの結論を導き出している。
この「マーケット」が「市場(しじょう)」と訳される。投資家は、この市場全体の値動きは株価指数で表すものだとして、その指数値でもって現実のマーケットの動きを解釈しようとした。ここで株価指数とは、日本では東証株価指数(TOPIX)であり、アメリカではダウ平均株価やS&P500とされてきた。
しかも実証分析によると、一般のアクティブ運用の成果(パフォーマンス)は株価指数を真似たパッシブ運用の成果を簡単には上回れない、そのような結論が得られ続けている。これからすると、誰しもがパッシブ運用を好むことになる。加えて、アクティブ運用の手数料(運用してもらったことへの対価)はパッシブ運用よりも高いから、あえてアクティブ運用を選ぶ理由がどこにも見当たらないことになる。でも本当なのか。
まず世界最大のアメリカ市場を考えたい。著名な投資家であるウオーレン・バフェット氏が言うように、代表的な株価指数であるS&P500を上回るパフォーマンスを達成するのは簡単ではない。これは確かな事実であり、バフェット氏自身もS&P500のインデックスファンドを保有しているようだ。
ここで注意すべき事実がある。S&P500はアメリカの上場株式市場全体を代表していないのである。「500」と名付けられているように、基本は500社だけによる株価指数である。その主たる選定方法は、時価総額の大きな企業から500社を選び出すことにある。競争の激しい、経営の下手な企業は消える運命にあるアメリカ市場の場合、時価総額が「企業の力」を象徴している。だからS&P500を上回る株式投資の難易度が高くなる。
言い換えればS&P500は「アメリカ市場」の株価を表してはいない。この意味で、S&P500を真似た投資はCAPMが言うパッシブ運用ではなく、アクティブ運用そのものである。違いは、投資家自身が投資対象企業を選択していないことだけである。
日本市場はどうなのか。代表的な株価指数はTOPIXなのだが、S&P500と異なり、原則として東証プライム市場に上場している全ての企業によって構成される。つまり「選定された企業」ではない。このため(僕らの世代のように老人になり)ピークを過ぎた企業、上場したものの成長が止まった企業、経営の下手な企業も含まれてしまう。
とすればTOPIXを上回る投資パフォーマンスは簡単なようなのだが、現実はそうではない。この理由が「やっぱりTOPIXは素晴らしい」ことにあるのか。そうは考えられない。
1つの理由は、日本のプロと称される投資家や関係者が投資理論を鵜呑みにしている事実である。PBR1倍割れ企業の議論にしても、ずっと以前から主張してきたのに誰も聞く耳を持たなかった。聞くところによると、有力者である某氏がつぶやいたから、ここにきて俄にPBR1倍割れ企業が問題視され始めたらしい。また、CAPMが短期投資の理論であることを知っている投資家がどれだけいるのか。
もう1つの理由は、プロと称される投資家や関係者が投資理論を鵜呑みにしつつ、TOPIXを真似た投資に偏重していることにある。公的年金がそれを先導、主導している。金融のプロであるべき日銀でさえそうである。このため、ある投資家が企業を選び、長期投資の観点から投資しても、TOPIXへの投資という大勢に流されがちとなる。結果ととして経営の下手な企業が消える運命にはなく、大企業の中にも「ウドの大木」が混じる。時価総額の上位企業にPBR1倍割れ企業が少なからず見られるのがその象徴だろう。
TOPIXは「日本市場」の株価を表している。他方、その日本市場にはPBR1倍割れ企業に代表されるように「投資対象にしてはならない」候補企業が多数(2社に1社)混じっている。この事実は、東証の上場基準もそうだし、投資家や企業自身のスタンスが「ぬるま湯」的なことに起因する。つまりTOPIXという株価指数は、S&P500と真逆の意味でアクティブな(不作為という作為のある)指数であり、そのTOPIXを真似るパッシブ運用は、本質的に(真逆の意味で)アクティブ運用の一種である。
2023/04/07