投資による損失をコントロールする方法(極端に大きくしない方法)として推奨されるのが分散投資である。その分散投資には投資対象の分散と、投資タイミングの分散がある。後者は、同じ株数を買うにしても、一回で買わずに数回に分けて買うという意味で、分散である。
前者の投資対象の分散が効果を有することについて、大きな異議はない。ただし「投資対象数が多くなればなるほど分散効果が高まる」との認識に関しては注意が必要である。理論的には正しいが、問題点がいくつかある。
1つに、投資対象の数が増えれば、対象を1つ増やすごとの効果が小さくなる。つまり分散投資の効果が逓減する。日本の株式市場だけで投資する場合、20か30社程度で十分な分散効果が得られる。
2つに、100も200社も「投資に値する」企業を見つけられるかどうかである。日本のように玉石混交の場合、ほどほどの投資対象数で止めておくのが正しいかもしれない。
3つに、投資対象数を増やせばコストが嵩む。見つける場合のコストと、維持するためのコストの2つである。言い換えれば投資対象企業を評価するためのコストとなる。なお、ここでのコストとは、「時間がかかる」という意味でのコストを含んでいる。
後者の時間分散の効果は金融庁のホームページにも記載があり、推奨されている。
これに対して「でもね」との反論があろう。たとえば相場の格言に「見切り千両、損切り万両」がある。現代的には「損切りルールを作っておけ」とされる。プロの投資家ではこのルールを設定していることが多い。損切りルールを少し意訳すれば、「ナンピン(難平)買い=値下がりした株を買い増すこと」はご法度となる。
本当のところ、何が正しいのか。
1つは、相場を張って(短期的な株価の動きに賭け)投機的に株式を買う場合、損切りルールが役立つ。明日の株価が上がると思ったのに逆に下がれば、それは明日の株価予想が外れたことになる。その外れ方が大きければ、ひとまず損失を確定させ、投資可能金額をすべて吐き出してしまう前に退場して、次の賭けのチャンスを待つ。以上の意味である。だからナンピンなんて論外となる。
一方、長期投資の観点から、「この企業は素晴らしい」と思いつつも、「安全のために数回に分けて買おう」との戦略を立てた場合は別である。1回目に買った後に株価が下がれば、「ラッキーだった」かもしれない。とはいえ、その値下がりの要因が、市場環境が悪かったことに求められるのか、そうではなく投資対象そのものが良くなかった、つまりその企業の価値を見誤ったことに求められるのか、常に振り返っておくことが重要となる。
もっとも時間分散では、「高値で買ってしまうリスクを避ける」効果しか得られない。さらに言えば、1回目に買った後に値上がりした場合、当初に計画した株数が買えない可能性が生じる。「買えない可能性」をなるべく避けるには、高値の目安を設定しておくのがいいかもしれない。
まとめれば、投資が短期なのか長期なのかを明確にしておくことが肝要である。長期であればナンピン買い的な時間分散投資が役立つ。短期であればナンピン買いはナンセンスだろう。この点について、僕の知る限り、多くのプロの投資家が認識していない。
僕自身の話をすれば、いろんな分散投資とナンピン買いとを経験した。大失敗した事例もある。
ところで、1年後に株価が2倍になった企業と株価が半値になった企業があるとする。当初、この2社に100円ずつ投資した場合、どうなるのか。200(100+100)円の元手が250(200+50)円になっている。ここでの事例は、株価変動が対数正規分布に従っているとの前提で述べている(詳しくは説明しない)。この前提の下で株価が動けば、かなりの確率で株式の長期投資は「儲かる」のである。実証分析していないが、経験からそう感じている。
2023/07/22