岸田首相は物価上昇に対処するため、税収増加の一部を減税政策に用いるようにと指示したらしい。この減税は恒久的なものでなく、期間限定だとされる。減税は、本来は国民にとって嬉しいものだが、今は喜んでいいものだろうか。
日経新聞などが主張するように、先進国として圧倒的な借金を背負っている日本に、果たして減税する余裕なんてあるのかと思う。今の減税模索は人気取りでしかない。究極のところ、自分たちのための減税である。まずやるべきは借金すなわち超多額の発行済み国債の返済だと、新聞が主張するのはごく自然である。
今の税収を借金の返済ではなく、どうしても積極的に使いたいとの意図かもしれない。そうであるのなら、近い将来に発生するだろう南海トラフ地震や新関東大震災、加えて富士山の噴火に備えるため、「災害復旧対策費」として積み立てるべきだろう。思い出せば東日本大震災に対して、今でも復興特別税が徴収されている。もしも政治家に企業家的先見性があるのなら、後出しでの復興費の徴収ではなく、事前に準備しておくのが当然である。
さらには、足元で進行している日本の物価上昇の原因がエネルギー価格の高騰なのか、問うべきである。本当は円の激安が重要である。1ドル110円から150円へ、これだけで輸入食品や製品の値段が36%と、激しく上がる。
では、ここまでの激しい円安が生じたのは何故か。日本企業の競争力が低下したためである。家電産業の撃沈、風前の灯となった半導体、海外勢が席巻しているスマホ、以上を思い起こせば十分だろう。日本の輸出産業として足元で大奮闘しているのは自動車だが、これとて電気自動車(EV)分野で大きく出遅れており、明日目覚めれば敗退ともなりかねない。
この競争力低下の真因は、政府の経済政策が企業を擁護しまくったことにある。結果として企業を甘やかせてしまった。
企業擁護の最たるものは、為替レートに対する政府のスタンスであり、「円高は望ましくない」だった。このスタンスは企業を甘やかせただけに終わった。円安により、すべての輸出企業に「思わぬ利益」が転がり込み、それが企業をぬるま湯漬けにし、競争力という牙を錆びさせた。今年4月、「日本経済はどこで間違ったか」で書いたように、正しくは「企業にとって、円高は望ましくない」である。
国民にとっては「円高はありがたい」。そのありがたさを今更ながら実感している。政治家には、物価高対策として減税を模索する前に、「円高の時代はありがたかった」と猛省が求められる。
そして、再び円高の時代を呼び戻すため、日本企業の競争力を強化するため、対策を推進するのが肝要だろう。この推進によって摩擦(つまり企業倒産による失業など)も生じよう。減税や給付金政策は、摩擦を緩和するのに用いればいい。マイナンバーカードも役立つだろうに。
2023/10/23