某社からの依頼原稿を書くため、話題のPBR(株価純資産倍率)のデータを整理していたところ、思わぬ事実に出くわした。それは自動車会社(完成車の製造企業)とその部品会社のPBRの低さである。
データとして用いたのは、日経新聞社の業種分類・上場企業(東証株価指数採用企業)ごとのPBR・10月末の数値である。その数値を使い、業種ごとにPBR1倍割れ企業数が、業種全体数の何%を占めているのかを調べた。なおPBRが1倍倍を割っていると、経営として問題含みの企業となる。少なくとも投資家がそう評価している企業ということである。
当初、銀行と電力・ガスのPBRが悲惨だろうと予想していた。銀行はゼロ金利の下で儲けられるはずもないし、電力・ガスはエネルギー価格の料金への十分な転嫁が認められてこなかった。両方とも公共性が高い業種だとも表現できる。
実際、銀行と電力・ガスのPBR1倍割れは広範囲だった。しかし、両者に割り込む業種があった。それが自動車とその部品である。
自動車でPBRが1倍を超えているのはトヨタ、スズキ、ヤマハ発動機のみである。自動車業界は世界的に過当競争の状態にある。このことが影響しているのだろう。PBRが1倍超の3社は、トヨタは現在のところ世界の雄(「雄」とは差別用語かな)であること、スズキとヤマハ発動機は独自の製品を保有していることが良い結果をもたらしている。
この3社だが、1倍を超えているとはいえ、ほんの僅かである。1倍という水面上で、EV(電気自動車)の波が荒い中、アップアップしているというのが正確な表現かもしれない。
部品業界(日経の業界区分に変な点があるものの、それは無視する)で1倍超は、65社中8社である。もう少し見れば、この8社のうち2社は個人向けの商品を販売しているため、純粋な部品会社は6社にとどまる。
多くの部品会社が完成車企業の系列であることが影響しているのだろう。PBR 1倍超の6社のうち、独立系が3社、具体的にはセーレン、ブリジストン、日本特殊陶業である。残りの3社はトヨタ系である。つまり、独自の技術と製品を持つか、それなりの親を持つかが1倍超の必要条件といえそうだ。そうでなければ、ひ弱な親から利益を絞り取られる。
親のスネをかじる状態とは真逆のことが企業経営ではまかり通っている。これが世の常だろう。銀行と電力・ガスは日本政府、日本国民という親を持つ。こちらも親の都合で十分な利益を上げられていない。そう見ることもできよう。
2023/11/08