前回の配当性向(当期純利益のうち何%を配当するのかの数値)について、アメリカの説明が文章だけだった。ぱっとイメージできない。そこでアメリカ企業の配当性向の分布も図示しておく。
この図の対象企業数は、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の中の456社である。その中に配当をしていない企業、つまり無配企業は92社あるから、20.2%が無配である(昨日の23%は間違いで、配当性向が5%未満の数値だった)。5社に1社が無配ながら、その中には赤字企業はない。
つまりアメリカでは、「儲かっているのに配当しない企業」が普通に見られる。日本の場合、無配は「あかんたれ企業」の象徴とされてきたが、それはアジアのガラパゴス、日本の常識でしかない。
アメリカでは、前回も書いたように、アマゾン、アルファベット(グーグルの持株会社)、テスラは無配である。メタ(フェイスブック)、アドビ、パークシャーハザウェイ(著名な投資家、ウォーレン・バフェット氏が築いた会社)もそうである。かつてマイクロソフトもアップルも無配の時期が長かった。
つまりアメリカでは、無配は高成長企業の勲章かもしれない。もちろん落ちぶれた企業にも無配が多いのだが(個人的にアメリカのそんな企業を投資対象にしていないから、にわかには名前が浮かばない)、そんな企業はいくら著名だったとしてもS&P500からふるい落とされていく。
どうして無配なのに投資家は怒らないのか。それは配当してもらうよりも、その資金を事業へと新たに投資してもらい、成長を遂げ、後日に何倍にもして支払ってもらった方がいいからである。
もう少し言えば、配当ではなく、成長して株価を上げてもらうのが投資家の理想である。無配企業の株価は「将来に期待できる多額の配当」を予測して形成される(投資理論的には、将来の配当の成長を反映して、今の株価が決まる)。現実にも、多くの著名な無配企業はこの投資家の夢を実現してきた。
逆に製薬会社は積極的に配当をしている。医薬品の研究開発には多額の費用がかかる。しかも成功するかどうかは千三である。だから、この業界は借金をしない。銀行も資金を貸したがないだろう。
投資家も同じで、もちろん大型新薬に期待しつつも、現実的には配当を望む。「儲かったら配当してや」である。だから無配の選択はなく、むしろ配当性向は非常に高い。
たとえば、現在アメリカ市場で時価総額1位になったらしいイーライリリーの場合、今季の予想配当性向は45%、2位のジョンソン・エンド・ジョンソンは47%、3位のメルクは今季の業績が悪いこともあり97%(前期は49%)である。業界としては横を見つつのようだが、投資家の意向を踏まえて対応しているのも確かだろう。
ということで、日本企業の配当への姿勢は、やはりアメリカとは異質である。経営者が事業と経営の本質を熟視しているのか、明日の我が身の安泰な退職しか見ていないのかの差のようだ。。
2023/11/11