川北英隆のブログ

電力とガスの紺屋の白袴

株価純資産倍率(PBR)の1倍割れが問題視されている。PBRとは「株式時価総額÷貸借対照表上の株主資本(純資産とも言う)」のことである。今年の3月末まで、誰が何と言おうと気にしなかった上場企業も、東証が「変だ」と言ったものだから大慌てになった。
PBRが1倍割れとは、その企業は今すぐ解散すべきだと株主が思っている状態である。
たとえば巨万の富の王様がいたとして、その王様がPBR1倍割れ企業のすべての株式を、株式市場から、現在の値段で買ったとしよう。そしてすぐさま、その企業を解散すれば大儲けできる。
念のために説明しておく。PBR1倍割れとは「株式時価総額<純資産」の状態である。王様が企業を市場から買う金額が「株式時価総額」であり、企業を解散して得られる金額が(不良資産がないとして)「純資産」だから、「株式時価総額<純資産」であれば大儲けとなる。
実際、巨万の富の王様と同じような行動の投資家がいる。PBR1倍割れ企業の株式を買い集め、買い集めた株式をいつでも巨万の富の王様に売り渡すぞとばかりに、その企業の経営者と交渉し、大きな利益を得ようとする投資家も多い。
ところで、東証の声は政府の声でもある。株価をテコ入れするための、資産運用立国を目指すための一環でもあった。
その上で上場企業をよく見ると、政府直轄の上場企業なのにPBRが1倍を大きく下回っている企業群がある。その代表が電力会社であり、ガス会社である。
今年3月末以降のPBRの推移を示しておく(QUICK社のデータによる)。悲惨な状態である。
要するに投資家は、電力やガスは儲からない商売だと思っている。気の利いた政府なら、そんな電力会社やガス会社の株式を全部買い集め、解散させるのがいいのかもしれない。
とはいえ電力やガスは公的なインフラだから、そんなことはできない。儲からないのは電力料金やガス代が安すぎるからである。政策的に安くしている。そうであるのなら、営利企業の株式を売買する場である株式市場に、電力会社やガス会社を上場させるのは変である。
「1倍割れが問題」と言うにもかかわらず、政府はちぐはぐな行動をとっている。資産運用立国を目指すのなら、それにそぐわない政策を変更すべきである。つまり電力会社やガス会社の上場廃止を促すのが筋となる。残念ことだが、今の僕はそんな企業の株式を持っていないし。

20231210電力ガスのPBR.png

2023/12/10


トップへ戻る