僕は思想としての共産主義に共感するわけでもないし、ましてや共産主義的な国家に疑問をいだいてきた。しかし日本の現状を観察するに、共産主義的な「万国の労働者」への呼びかけを思い出してしまう。万国のというよりは、日本の労働者は怒るべきである。
何故そう思ったのか。
1つは今年の春闘である。組合の要求に対して満額回答が続出、企業によっては満額超えが出たとか。後者の代表が日本製鉄である。
これを見た一般的な評価は、労働組合は組合員の味方ではなく、組合の役職員のための組織に成り果てたというもの。要するに組合は企業側と無駄な交渉はせず、ストなんて頭の片隅にもなく、組合費を徴収している手前、仕事をした格好に終始している。
しかも内々に企業側と通じていて、無理のない賃上げ要求をするし、場合によっては「太っ腹の経営者や」と見せるために、わざと低い要求をする。そう見ている知人も何人かいる。
こうなると、労働組合から抜けるのが最善策となる。公的年金の保険料や健康保険料が暴騰しているから、せめて組合費を節約するのが懸命というものだ。
もう1つの理由は絶好調な企業業績である。株価が何故上がるのか、今年の賃上げの影響はどうなのか。それを分析してみた。
わかったことは、大企業が人件費をケチっている事実である。これにより、大企業の利益が膨らんでいる。
そこで、企業が売上高に対してどの程度の「社会的な利益」を稼いでいるのかを計算してみた。ここでの「社会的な利益」とは、国内総生産と同等のものとした。具体的には、「営業利益、減価償却費、人件費を合計した付加価値額」である。
この付加価値を売上高で割ってみると、この率はコロナ前を超えている。とくに非製造業の上昇が目立つ。それなのに、付加価値額に占める人件費率はコロナ前と比べ、低下している。その結果、企業の取り分、すなわち付加価値に対する営業利益の率が大きく上昇しているではないか。
大企業未満の企業はといえば、製造業を中心に、大企業とは相当の差がある。目立つのは人手不足に対応するためか、設備投資に力を入れ、減価償却費が上昇している。人件費率も高いままである。
結局のところ、大企業は自分たちの人件費を節約しつつ、かつ下請けもできるだけ安く使いつつ、利益を伸ばしているようだ。今年の春闘の賃上げ率が高かったといっても、結果として大企業の懐にどの程度響くのだろうか。
しっぺ返しが来なければいいのだがと思いつつ、他方で「日本の労働者というか、従業員は大人しすぎる」、「立ち上がり、怒るべきだ」、「新しく組合を作るべきだ」と、当初の思いに帰った次第である。今では、そんなケチ臭い企業に見切りをつけるという手もあるか。
2024/03/27