川北英隆のブログ

国際収支から見た円安

円を売る勢いが強い。4/29、一時的に円ドルレートは160円台に突入したとか。そこに、どうもドル売り円買いの介入があったとかで、1ドル当たり5円程度の円高に転じ、155円台に戻った。
この短期的な動きはともかく、どうして円が売られるのか。実のところ、国際収支統計上、経常収支(物やサービスという、通常の生産活動にともなう海外との取引上の収支)は黒字、すなわち日本側の資金の受取の方が大きい。貿易では赤字である(輸出よりも輸入が多い)ものの、海外への投資から得られる収入が、海外から日本への投資に対する支払いと比べてはるかに大きいため、言い換えれば所得収支が大幅な黒字であるため、経常収支が黒字の状態にある。
もう少し説明すると、通常の生産活動だけなら、日本から海外へ出るよりも、海外から日本に入ってくる資金の方が多い。そうであるなら、円高になっていいはずなのだが、現実は円安である。しかも最近は円安の勢いが強い。どうなっているのか。
結論は、通常の生産活動以外での、つまり金融収支(金融取引における資金の流れ)において、日本から海外に流出する資金量が非常に大きいからである。
金融収支の代表が投資である。企業が海外に工場を建設するなどのために海外に持ち出す資金(直接投資)や、投資家が株式や債券に投資するために海外に持ち出す資金である。この金融収支の金額が中途半端ではない。
2023年を例として、以上を数字で示しておく。
貿易収支はマイナス6.5兆円、これに加えてサーピス収支もマイナス2.9兆円であるのに対し、所得収支が30.8兆円の黒字であるため、経常収支は21.4兆円の黒字だった。
この23年の経常収支の黒字は、日本による海外での金融資産形成の原資となった。どのような金融資産になったのか。
海外への工場などの投資(直接投資)に22.8兆円、証券投資に27.8兆円である。経常収支を大きく上回る資金が海外に向かっていることに注目したい。なお、この数値は、国内投資家が海外に投資した金額と、海外投資家が日本に投資した金額の合算である。
では証券投資の27.8兆円のうち、国内投資家がいくら海外証券を買ったのかというと、17.6兆円だった。ということは海外投資家が10.2兆円、国内証券を売り越している(その分を日本の投資家が買い戻した)。海外投資家の売りは主に国債の売却である。
以上が昨年の数値である。今年に入って、国内投資家による海外証券投資が1月、2月と大幅である。まず金融機関が金利の高い海外債券を買っている。同時に個人が海外株式を、主に投資信託の形態で買っている。個人の海外株式の買いには、1月に始まった新NISA(少額投資非課税制度)の影響が大きいと考えていい。
このように見てみると、海外への投資資金の流れはなかなか止まりそうにない。国内企業よりも海外の方が魅力的なこともあろうから。

2024/04/30


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