前回は賃金に関して労働分配率の推移を見て、企業側の「渋ちん」ぶりを確認した。とはいえ、賃金の支払い総額自身は増えているかもしれない。支払総額が増えれば、日本経済に活気が生まれよう。
そこで、同じ統計調査(法人企業統計)の結果を用い、人件費の支払総額を観察した。ここでの人件費は従業員に対する給与と賞与の合計とした。この数値を把握し、前年度に対する増加率を計算したうえで、それをグラフにした。
また、2024年度4-6月期の統計も公表されているので、前年同期と比較することで、とりあえずの今年度の数値とし、同じグラフに示した。ただし今年度の春闘の結果がフルに現れるのは7月以降だろうから、多少低い数値かもしれない。
グラフを見ると、製造業、非製造業ともに中小企業(資本金10億円未満の企業)は足元において賃金の支払額を増やしている。人手不足が深刻化しているため、賃金を弾む必要性が高まっているのだろう。
これに対して大企業(資本金10億円以上の企業)の場合、賃金の支払額はあまり増えていない。今年度の増え方も大した率ではない。
この理由として考えられるのは、1つには、上で書いたように今年度の賃上げが月例給与に反映されるのは7月以降になることだろう。とはいえ4-6月の大企業の賞与の増加率は、製造業が3.9%、非製造業が3.4%であり、「5%以上の賃上げが実現した」と報じられている割には大したことがない。多くの大企業の場合、賞与は6月に支払われると考えていいはずなのだが。
もう1つの理由は、大企業の場合、機械化を進め、雇用人数を削減している可能性である。1人当りの人件費がたとえば5%増加したとしても、人員数が少なくなれば人件費の総額の増加率は小さくなる。
もっとも、景気に反映するのは人件費の総額である。グラフに示した程度の増加率では景気に対する好影響は大きくないだろう。いずれにしても7-9月の数値が12月に判明する。それを待ちたい。
2024/11/06