川北英隆のブログ

公的年金の株式比率が高まる

厚労省において、公的年金(主に厚生年金)積立金の運用利回り目標のアップがほぼ決まったらしい。これまでは「賃金上昇率(将来における経済前提の値)+1.7%」とされてきた。それが「賃金上昇率+1.9%」と、0.2%上げることになるとか。
上げる背景に何があるのかは不明である。今までの運用利回りが、内外の株価が上昇してきたことや円安があり、相当高かったからか。
アップの率はたかだか0.2%かもしれないものの、今年9月末時点において公的年金の積立金は約300兆円ある。0.2%高く見積もれば、6000億円の収益が追加で得られる計算となる。
運用利回りの目標が0.2%高くなれば、具体的に何が生じるのか。投資収益率が高いと考えられる資産での運用比率を高めなければならない。簡単にイメージできるように、株式での投資比率を高めることだろう。なかでも海外株式の比率を高めることが有力な候補となる。
実際のところは価格変動リスク(正確には株式の投資収益率の変動リスク)も加味されるため、「株式の比率が高まる」とは断言できない。とはいえ、かなり確度が高いと、市場関係者もみている。しかも資産運用立国という政府の政策にも即している。
もう少し書いておく。現時点での公的年金のポートフォリオは、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券が各25%となっている。もちろん時価の変動によって25%から少しずれることがあるものの、大きな違いが出ないように調整(売買)が行われている。ということは、公的年金が保有する国内株式、海外株式の額はとも約75兆円と考えてほぼ正しい。
注意しなければならないのは、上で触れたリスクである。株価が大きく下落するリスクはいつでもある。これまで株価が大きく上昇してきただけに、注意信号が点っている。
これもすぐに計算できるように、内外の株価が1%下落するだけで(この程度の変動はいつでも生じている)、合計1.5兆円の損失が発生する。10%下落すれば(この程度の下落も珍しくない)、合計15兆円の損失である。
個人の株式投資であれば「しゃあないか、変なのに投資したわけでないから、いずれ株価は戻るだろう」と構えていいが、公的年金の場合は国民から預かったに等しい資産である。
株価が大きく下がって公的年金に損失が生じれば、大新聞が書きたて、テレビがニュースで報じるに違いない。その時、公的年金が耐えられるのか、厚労省がかばうのか。さらに株価が長期間低迷した場合、厚労省として公的年金の制度が万全だと約束できるのか。
これまでよりも低い運用利回りを目指して安全を確保するのならともかく、高い利回りという積極的なスタンスに転じるのであれば、それだけの覚悟が必要なのだけは確かである。

2024/12/27


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