タリフマン(関税男)のトランプが世界経済を騒がせている。関税を課し、「世界からいじめられている」アメリカ産業を断固護り、競争力を回復させようとの発想である。そのために関税というムチを振りまくっているわけだ。経済的に正しい政策なのか。
アメリカ企業の現状は「強い」である。ここ何年かの株価上昇率を見ればわかる。ただし、その強さはまだら模様である。
たとえば産業として、ネットやAI(人工知能)、医療関係は非常に強い。宇宙もあった。それに関連する製造分野は強い。
他方、かつて世界を魅了した分野は弱い。鉄鋼が典型であり、自動車もEV以外は弱りつつある。これらが、トランプが関税というムチを振るおうとしている分野である。
アメリカ企業は「誰でも作れる分野」から退く一方で、世界の先端をいく分野を作り出し、そこに居場所を移しつつある。経済学的には「比較優位のある分野」を作り出してきたといえる。そうすることにより、得意分野での生産に資源(資本、労働力など)を集中でき、生産力を高められる。
たとえば限りある資源としての「頭脳」を、より高い付加価値をもたらす生産活動に投入でき、経済活動を高度化できる。別角度から見れば、グローバルな分業を推し進めている。発展途上国には労働集約的な産業を担ってもらい、アメリカはより知的な産業を担う。
この分業をアメリカが国として狙ったわけでない。国は放任主義だった。それを受け、アメリカ企業は経済合理性を求めて活動した。多くの国や企業が参入でき、競争の激しくなる分野には力を入れず、むしろ撤退した。より高い利益率を求めた結果である。
この経済合理性のあくなき追求により、アメリカ企業は見事に比較優位分野を獲得し、グローバルな競争に勝ってきた。アメリカ国から評価すると、非常に望ましい成果である。
ではトランプの経済政策はどうなのか。復活させようとしている鉄やアルミなどの金属精錬分野は古い産業であり、誰でもできる。そんな分野の復活は、アメリカが誇る高度人材の無駄遣いである。復活させたいのなら、環境への配慮など、精錬の高度化を図るべきだろう。
衰退したものを懐かしむという「情にほだされた政策」であり、文学的もしくは芸術的ならともかくも、経済的にはそっぽを向いている。要するに、昔を懐かしみ、その世界に戻りたいとの政策である。当時の世界はアメリカの黄金期であり、歴史書にはモニュメントとして描かれている。しかし当時の黄金色は今は錆び、付近にはもっと立派な像が林立している。
アメリカという大国がなすべき経済政策は、今までどおりに比較優位分野に資源を集中する(企業に資源を集中させる)ことである。それ以外の分野は必要不可欠なものを除き、他国に任せればいい。
とはいえアメリカとしての安全保障上の懸念は残る。そこでアメリカが国としてなすべきは、グローバルな平和と秩序を守るために力を注ぐことである。秩序のための仕組み作りであり、賛同国作りである。国内に生じた格差問題もある。それには税制で対処すべきである。
現実はというと、「いやー、無知とムチは恐ろしい」。
2025/03/15